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我が一九二二年
わがせんきゅうひゃくにじゅうにねん
作品ID56886
副題01 序
01 じょ
著者生田 長江
文字遣い新字旧仮名
底本 「現代日本文學大系 42 佐藤春夫集」 筑摩書房
1969(昭和44)年6月25日
初出「我が一九二二年」新潮社、1923(大正12)年2月18日
入力者阿部哲也
校正者noriko saito
公開 / 更新2016-04-21 / 2016-03-04
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 私達の友人は既に、彼の本性にかなはない総ての物を脱ぎ棄て、すべての物を斥けた。そして彼自らの手で紡ぎ、織り、裁ち、縫ひ上げたところの、彼の肉体以上にさへ彼らしい軽羅をのみ纏ふて今、彼一人の爽かな径を行つてゐる。
 他の何人に対してよりも、自分自身に対して最善の批評家であるところの彼は、つねにただ、彼の子供として恥しくない子供だけを生み、より恥しくない子供だけを育て上げてゐる。彼のと異つた芸術を要求することは固より許されよう。彼のにまさつて完全なる(或は完全に近い)芸術といふものは、たやすく現代の世界に見出されないであらう。
 彼の芸術は、詩に於て最も彼らしきところを、最も完全なるところを示してゐる。
 今の詩壇に対する彼の詩は、余りにも渾然たるが故に古典的時代錯誤であり、余りにも溌溂たるが故に未来派的時代錯誤であることを免れない。
 嗚呼、この心憎き、羨望すべき時代錯誤よ。時代錯誤の麟鳳よ。永久に詩人的なるものよ。
『永久に詩人的なるもの』私達の友人よ、ねがはくは彼によりて、彼を取りまける総ての者が、詩の天上にまで引きあげられて行くことを。
一九二三年一月十四日
生田長江


月をわび身を佗びつたなきをわびてわぶとこたへんとすれど問ふ人もなし。
芭蕉翁尺牘より



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