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『青鞜』を引き継ぐに就いて
『せいとう』をひきつぐについて
作品ID56959
著者伊藤 野枝
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」 學藝書林
2000(平成12)年5月31日
初出「青鞜 第五巻第一号」1915(大正4)年1月号
入力者酒井裕二
校正者笹平健一
公開 / 更新2024-01-21 / 2024-01-09
長さの目安約 22 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 新しきものゝ動き初めたときに旧いものから加へらるゝ圧迫は大抵同じ形式をもつて何時もおしよせて来るやうに思はれます。
 青鞜が創刊当時から今日迄加へられて来ましたあらゆる方面に於ける圧迫がこの種のものであることは今更云ふ迄もない事ですが更に私たちの主張が従来の歴史的事実からあまりに離れてゐたと云ふ事が――それは勿論人々から圧迫を受けたり反抗されたりするも重なる原因ですが――予想以上に人々を驚かし惑はし不思議がらせました。そしてその懸隔があまりにひどかつた為めに、私たちは容易に他の人々と近づくことが出来ませんでした。そうして誤解を重ねあやしつれ先入見の為めにお互ひにその間隔を近づけやうとはしなくなりました。けれどもまた却つてそれが衆人の好奇心を呼びました。そして不思議にも私達は他の雑誌のやうには経営の困難を感ずるやうな事はありませんでした。併し私たちの真面目な思想や主張は流行品扱ひにされました。皮相な真似のみをしたがる浅薄な人達の行為が私共の上に迄及びました。そして私たちは世間で八ヶましく云へば云ふ程自己の内部に向つてすべてを集注しやうとしました。
 それは私たちにとつては実に一番適当な又真実な態度で御座いました。けれどもそれが為めに世間との隔たりはだんだん遠くなつて仕舞ひました。誤解はとけずにそのまゝ私たちに対する世間の人たちの固定観念となつて仕舞ひました。
 けれども私たちはなを一層自分自身のことについて考へなければなりませんでした。実際それに私たちの私生活は社会とは没交渉であることが最も自然らしく思はれました。それで出来る丈け社会との煩はしい交渉を止めやうとしました。
 併し世間の人達の好奇心が何時迄も続く筈はありません。私たちは必然に社会との隔たりにぶつかりました。私たちはまづ経済的の苦痛を知らなければならないやうになりました。そうして今やつと私たち、少くとも私丈けは自然社会と自分を前にして考へなければならなくなりました。
 私は先づ此処迄に至る私の気持を洗ひざらひ此処に拡げて見やうと思ひます。
 最初青鞜を創刊する時の態度が第一に既に間違つてゐたやうに思ひます。私はその当時の事は本当に委しくは知りませんけれども少くとも今迄に私の知り得た事から察しても平塚氏の仕事であつたことは疑ひのない事実だと思ひます。処がそれは全く違つた形式で発表されました。社員組織だと云ふのです。私はたゞ一概にそれを悪いとは思ひませんけれどもそれは可なり根拠のない共同組織であつたらしく思はれます。或は私の臆測かも知れませんが――極く女らしい謙譲の心持から責任をもつて確とした権威をもつた経営者たることを辞して共同責任とされたことが第一歩のあやまちであつたかもしれないと私は思ひます。それ故各自の人が自分の勉強とか仕事とか云ふものと雑誌と云ふものが何となく違つたものに思はれた事がそれを…

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