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書簡 大杉栄宛
しょかん おおすぎさかえあて |
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作品ID | 57002 |
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副題 | (一九一六年五月三〇日) (せんきゅうひゃくじゅうろくねんごがつさんじゅうにち) |
著者 | 伊藤 野枝 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」 學藝書林 2000(平成12)年5月31日 |
入力者 | 酒井裕二 |
校正者 | 雪森 |
公開 / 更新 | 2016-02-20 / 2016-01-04 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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宛先 東京市麹町区三番町六四 第一福四萬館
発信地 千葉県夷隅郡御宿 上野屋旅館
あなたは本当にひどいんですね。あんな余計な処まで抜き書きをしなくつたつていいぢやありませんか。本当にひどい。でも、あなたが怒る/\つて云つてらしたほど怒りはしませんけれどね。大好きなあなたがお書きになつたのですものね。
私は、もう総てがよく解つてゐましたので、前に頂いた手紙を読み返してゐるやうな気持でした。でも、割合に、あれで少し考へのある人には解りさうですね。三人のあれを読んで分らない人は到底救はれない人達ですね。私は何よりも、あのあなたのお手紙によつて、保子さんがあなたの気持をおたしかめになる事が出来るだらうと云ふ事を考へてゐます。
神近さんのを拝見して、非常によくあの方の気持が解つた事を嬉しく思ひました。ただ、あなたと神近さんの最初の事が彼処に書いてありましたのね。あれを読んで、あなたに少し厭やな感じを持ちました。何故だか分るでせう? 私は昨日一日その厭やな感じを払い退ける事が出来ないでゐました。今はもうそれ程ではありません。何んでもない事なのですもの。
また嵐にでもなりさうです。国の父からは怒つて来ました。子供なんか連れて来てはいけない、一人でも当分来てはいけない、と云つて来ました。叔母からも従妹からもまだ何んとも云つては来ません。
今頃、何にをしておいでになるのでせうね。さよなら。
[『大杉栄全集』第四巻、大杉栄全集刊行会、一九二六年九月]