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那須、尾瀬、赤城、志賀高原
なす、おぜ、あかぎ、しがこうげん
作品ID57032
著者木暮 理太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「山の憶い出 下  」 平凡社ライブラリー、平凡社
1999(平成11)年7月15日
初出「改造」1935(昭和10)年7月
入力者栗原晶子
校正者雪森
公開 / 更新2016-01-08 / 2015-12-30
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

那須岳

 那須火山群は、広漠たる那須ヶ原の北端に在って、南北に長い連嶺をなし、所謂那須の五岳を含む山塊を総称したものである。五岳とは南の黒尾谷岳から順に北へ南月山、茶臼岳、朝日岳及び北肩は下野、磐城、岩代の三国界に跨る三本槍岳を指したもので、主峰は千九百十七米の茶臼岳である。普通那須岳と言えばこの茶臼岳を意味している。この山は南月山と朝日岳との間に開口した大火口内に噴出し、那須火山群中で最後に生成したものだけに、今も名の如く円く膨れた山体の各所から烟を揚げ、就中北及び西北の肩に在る幾多の硫気孔は、水蒸気と共に多量の亜硫酸瓦斯を噴出するので、石を畳んで烟を伏せ、硫黄を凝固せしめ、これを掻き落して採集したものを郭公湯の北に在る精煉所に送って精製している。其状一種の奇観と称す可きも、亦悽愴の気が身に迫るを覚える。そのあたりを無間の谷というのは、同名の地獄を聯想しての名ででもあろうか。
 茶臼岳には又高湯山の別名がある。これは山の西面から熱湯が滾々と湧き出している為であるらしい、高湯山大権現と記した石碑もある。茶臼岳の北は峰の茶屋一名荷置場の鞍部から剣ヶ峰の隆起を越えて、朝日岳に連るが、此間は岩が脆く崩れ易いがらがらした尾根で、登降に困難を感ずる。然し朝日岳の西北に在る熊見曾根の尖峰からは路はずっと楽になる。熊見曾根を北に下った稍や広い鞍部は、大倉場又の名は清水平で、偃松に囲まれた湿地に水を湛えている、田代池という。ここから三本槍の三角点へは登り五十分を要する。
 茶臼岳の南には、南月山に連る山稜との間に牛ノ首と呼ぶ鞍部がある。元は湯本から高雄湯に出で、ここに上り着いたものであるが、今は此道を取るものは稀で、多くは湯本から硫黄運搬の木橇道に出で、弁天湯の南を経て精煉所に至り、剣ヶ峰の南に在る荷置場に達する道を辿るようになった。荷置場から南に向って茶臼岳の頂上まで四十分あれば足りる。牛ノ首から直に茶臼岳に上るのは、岩が危険なので、安全を期する為には西側を搦み、荷置場に出て頂上に向う方がよい。
 茶臼岳に登ると更に三本槍岳へも行き度くなるかも知れない。これには往復六時間を要するものと思わなければならぬ。湯本から荷置場迄登り四時間下り三時間と見て、合計十三時間の行程であるが、これは余裕のある見積りであるから、天候さえよければ困難ではあるまい。尤も前日に大丸か弁天湯又は郭公湯あたりに一泊すれば申分はない。尚お熊見曾根から隠居倉を経て西側の三斗小屋温泉に下る道もあって、二時間あれば充分である。
 那須も赤城山と同様に、針葉樹林に欠けている。唯だ南月山の南面に辛うじて其存在が認められるに過ぎない。赤城とは高度僅に百米の差であるが、赤城には偃松がなく、那須にはかなり多い。これは緯度が高い為であろうと思う。
 那須は塩原と共に関東北部の温泉郷である。唯だその異なるところは、塩原温…

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