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女教員の縊死
じょきょういんのいし
作品ID57053
副題(三面記事評論)
(さんめんきじひょうろん)
著者伊藤 野枝
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」 學藝書林
2000(平成12)年5月31日
初出「新公論 第三〇巻第七号」1915(大正4)年7月号
入力者酒井裕二
校正者きゅうり
公開 / 更新2018-09-16 / 2018-08-28
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 女教員の縊死と題して大阪朝日に記されてゐた事柄は、大阪市内の某校の女教師が母と一緒に暮してゐてそのうち養子を迎へたがどうしても仲よくすることが出来ずに争ひがたえなかったが[#「たえなかったが」はママ]或日も午後の七時頃から買物に出かけて十時頃かへつたがあまり外出の時間が長いと小言を云はれてそれから大げんかをしたが翌日またそのつゞきがあつて結局女は二階にあがつて縊死を遂たと云ふのだが実に下だらない事に死んだものだとしか私には思はれない。始終そんなに争つてばかしゐたのなら何故に離縁でも何でもしないのだらう何にも死なゝくともよささうなものだと思はれる。たゞ記事丈けで見れば死んだのは良人と仲がわるくて大げんかをしたのが動機になつて前から覚悟をきめてゐたのを決行したと云ふ風にとれるがしかし真相はとても記事によつて丈けではわからない、もつと死なゝくてはならない他の人には分らない事情があつたのかもしれない。併しそれは到底わからないから記事だけに信をおいて見れば実につまらない理由で死んだとしか思へない。三面記事としてはつまらない記事だ。こんなつまらない記事を女教師の縊死だなどゝ大げさに書くことはあんまり気のきいたことでもない。読ませやうとする上からはかういふ好奇心を引くやうなみだしをつけることも必要なことかもしれないがよむ方ではみだしの割にはよんでしまつてから「なあんだ」と云う風につまらながつて仕舞つてだん/\に興味を引かなくなつて仕舞ひはしないかと思はれる。一体私は新聞紙の報道を信ずることがどうしても出来ない。三面の一寸した報道にもはやく報道すると云ふ方にばかりかたむいて、真実を報じやうと云ふ堅実な考へはまるでないやうに思はれる。甲の新聞と乙の新聞では大変に、同一の事件でもちがふし、丙の新聞を見ればまたちがつてゐると云ふ風に一つ/\がちがつてゐるのでどれを信じやうにもどれが真か偽かわからなくなつてしまふ。甚だしいのは事件の中心の人物の名前などがまるで、甲と丙ではちがつてゐたり何かする。事件の真相とか何とか云ふことは或る種のことに対しては書けないかもしれないしなか/\真相をさがすのには骨が折れるであらうし違ふことがあつてもさう責められはしないけれど人の名位はせめて本当に調べて貰ひたい。何の関係もない者には名前や何かはまちがつてゐやうと本当であらうとかまはないやうなものゝそれでも皆が皆殊に女の名前なんかまちがひやすいと見えてひどく一つ/\の新聞がまちがつてゐる。すると事件の内容を書いた処まで少しちがつてゐればどれが本当だか見当がつかなくなつてしまふやうな事になる。
 彼の福岡県の讎打をしたと称する少年の話などもかなり種々な問題になつたやうだがこの頃の記事で見ると彼は自分がはじめからねらつてゐたのではなくて大人が八人も一緒になつて彼に助太刀をして殺したのだと云ふ。他人に智慧づ…

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