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大金塊
だいきんかい |
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作品ID | 57106 |
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著者 | 江戸川 乱歩 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「超人ニコラ/大金塊」 江戸川乱歩推理文庫、講談社 1988(昭和63)年10月8日 |
初出 | 「少年倶楽部 第二十六巻第一号―第二十七巻第二号」大日本雄弁会講談社、1939(昭和14)年1月号~1940(昭和15)年2月号 |
入力者 | sogo |
校正者 | 茅宮君子 |
公開 / 更新 | 2018-04-12 / 2018-03-26 |
長さの目安 | 約 191 ページ(500字/頁で計算) |
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恐怖の一夜
小学校六年生の宮瀬不二夫君は、たったひとり、広いおうちにるす番をしていました。
宮瀬君のおうちは、東京の西北のはずれにあたる荻窪の、さびしい丘の上に立っていました。このおうちは不二夫君のおじさんが建てられたのですが、そのおじさんが亡くなって、おばさんも子どももなかったものですから、不二夫君のおとうさまのものとなり、一年ほどまえから、不二夫君一家がそこに住んでいたのでした。
このおうちを建てたおじさんというのは、ひどくふうがわりな人で、一生お嫁さんももらわないですごし、そのうえ人づきあいもあまりしないで、自分で建てた大きな家にとじこもって、こっとういじりばかりして暮らしていたのですが、このおうちも、そのおじさんが建てただけあって、いかにもふうがわりな、古めかしい建て方でした。
全体で十二間ほどの二階建てコンクリートづくりの洋館なのですが、赤がわらの屋根の形がみょうなかっこうに入りくんでいて、まるでお城かなんかのような感じでしたし、その屋根の上に、いまどきめずらしい、石炭をたく暖炉の、四角なえんとつがニューッとつきでていて、おうちのかっこうをいっそう奇妙に見せているのでした。
おうちの中もみょうな間どりになっていて、廊下がいやにまがりくねっているような建て方でしたが、この部屋部屋のかざりつけは、さすがにこっとうずきのおじさんがえらばれただけあって、みな美術的なりっぱなものばかりでした。
なかにも階下にある広い客間なんかは、まるで美術陳列室といってもよいくらい、高価な美しい品物でいっぱいになっていました。壁にかかっている西洋の名画、外国からわざわざ取りよせた、名人のこしらえたイスやテーブル、ほりものの美しいかざりだな、ペルシャ製のじゅうたんなど、こりにこった、とびきり高価なものばかりでした。
宮瀬不二夫君は、そのりっぱなおうちの寝室で、今ベッドにはいったばかりのところなのです。
おとうさまは会社のご用で、どうしても一晩、家をるすにされねばならなかったものですから、不二夫君は、広いおうちに、ひとりでるす番をしていたのです。もっとも書生や女中たちが、遠くの部屋にいることはいたのですが、それはみな雇い人なのですから、おとうさまがいられたときのように、心じょうぶではありません。
では、おかあさまはといいますと、そのやさしいおかあさまは、四年ほどまえに亡くなられて、今では、宮瀬家の家族は、おとうさまと不二夫君のただふたりだけなのでした。
春の夜もふけて、ベッドのまくらもとの置き時計は、もう十時をすぎていました。不二夫君は、いつもならば、もうとっくにねむっている時刻なのに、今夜はどうしたわけか、みょうに寝つかれないのです。寒くもないのに、なんだか背中がぞくぞくするようで、さびしくて、こわくてしかたがないのです。六年生にもなっていて、こんなおくび…