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超人ニコラ
ちょうじんニコラ |
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作品ID | 57107 |
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著者 | 江戸川 乱歩 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「超人ニコラ/大金塊」 江戸川乱歩推理文庫、講談社 1988(昭和63)年10月8日 |
初出 | 「少年」光文社、1962(昭和37)年1月~12月 |
入力者 | sogo |
校正者 | 茅宮君子 |
公開 / 更新 | 2018-03-16 / 2018-02-25 |
長さの目安 | 約 166 ページ(500字/頁で計算) |
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もうひとりの少年
東京の銀座に大きな店をもち、宝石王といわれている玉村宝石店の主人、玉村銀之助さんのすまいは、渋谷区のしずかなやしき町にありました。
玉村さんの家庭には、奥さんと、ふたりの子どもがあります。ねえさんは光子といって高校一年生、弟は銀一といって中学一年生です。
あるとき、その玉村銀一君の身の上に、じつにふしぎなことがおこりました。それがこのお話の出発点になるのです。
その夜、玉村君は、松井君、吉田君という、ふたりの友だちと、渋谷の大東映画館で、日本もののスリラー映画を見ていました。
それは大東映画会社の東京撮影所で作られたもので、映画の中に、ときどき、東京の町があらわれるのです。
「あっ、渋谷駅だっ。ハチ公がいる。」
松井君が、おもわず口に出していいました。それはおっかけの場面で、にげる悪者、追跡する刑事、カメラがそれをズーッとおっていくのですが、そこへ駅前の人通りがうつり、ハチ公の銅像も、画面にはいったのです。
「あらっ、玉村君、きみがいるよ。ほら、ハチ公のむこうに、やあ、へんな顔して、笑ってらあ。」
吉田君が、とんきょうな声をたてたので、まわりの観客が、みんなこちらをむいて、「シーッ。」といいました。
玉村君は、スクリーンの上の自分の姿を見て、へんな気がしました。ハチ公の銅像のうしろから、こちらをのぞいて、にやにや笑っている自分の顔、それが一メートルほどに、大きくうつっているのです。
それがうつったのは、たった十秒ぐらいですが、たしかに自分の顔にちがいありません。玉村君は、ここにうつっているのは、いつのことだろうと考えてみました。
「おやっ、へんだな。ぼくは渋谷駅で、映画のロケーションなんか見たことは、一度もないぞ。」
いくら考えても、おもいだせません。知らないうちに、うつされてしまったのでしょうか。まさか、ロケーションに気づかないはずはありません。
そのばんは、うちにかえって、ベッドにはいってからも、それが気になって、なかなかねむれませんでした。
あれは、自分によくにた少年かもしれないとおもいましたが、しかし、あんなにそっくりの少年が、ほかにあろうとは考えられないではありませんか。
玉村君は、なんだか心配になってきました。自分とそっくりの人間が、どこかにいるとしたら、これはおそろしいことです。
それから一週間ほどたった、ある日のこと、玉村君の心配したことが、じつに気味のわるい形で、あらわれてきました。
玉村君と松井君とは、明智探偵事務所の小林少年を団長とする、少年探偵団の団員でした。ですから、ふたりはたいへんなかよしで、どこかへいくときは、たいてい、いっしょでした。
その松井君が、ある日、学校がおわってから、玉村君をひきとめて、校庭のすみの土手にもたれて、へんなことをいいだしました。
「玉村君、ぼく、すっかり…