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塔上の奇術師
とうじょうのきじゅつし |
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作品ID | 57109 |
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著者 | 江戸川 乱歩 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「塔上の奇術師/鉄人Q」 江戸川乱歩推理文庫、講談社 1988(昭和63)年7月8日 |
初出 | 「少女クラブ」講談社、1958(昭和33)年1月号~12月号 |
入力者 | sogo |
校正者 | 大久保ゆう |
公開 / 更新 | 2017-02-15 / 2017-02-06 |
長さの目安 | 約 153 ページ(500字/頁で計算) |
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ふしぎな時計塔
ある夕がた、名探偵明智小五郎の少女助手、花崎マユミさんは、中学一年のかわいらしい少女ふたりと手をとりあって、さびしい原っぱを歩いていました。
畑があったり、林があったり、青い草でふちどられた小川がながれていたり、その上にむかしふうの土橋がかかっていたりして、まるで、いなかのようなけしきですが、ここは、いなかではなく、東京都世田谷区のはずれなのです。
マユミさんにつれられているふたりの少女は、淡谷スミ子と森下トシ子という、おなじ中学の同級生で、淡谷さんのおうちがこの近くにあるので、きょうはマユミねえさまと森下トシ子ちゃんをおまねきして、三人で、この原っぱへさんぽに出たのです。
スミ子ちゃんもトシ子ちゃんも算数がとくいで、ものごとを、すじみちをたてて考えることがすきでした。
ですから、読みものとしては、探偵小説がすきなのです。悪人が、いろいろなトリックをつかってだまそうとするのを、知恵の力でみやぶるのが、おもしろくてたまらないのでした。
それに、スミ子ちゃんもトシ子ちゃんも、スポーツがとくいで、同級の男の子たちにも負けないくらい、かっぱつな少女でしたから、どうかして、マユミさんのような、少女探偵になりたいと思ったのです。
さいわい森下トシ子ちゃんのおねえさまが、マユミさんのお友だちを知っていましたので、そのおねえさまに紹介してもらって、なかよしの淡谷スミ子ちゃんといっしょにマユミさんをたずね、弟子にしてくださいと、もうしこんだのです。
「まあ、あなたがた、ゆうかんね。中学一年じゃ、まだはやいわ。それに、おとうさまやおかあさまが、おゆるしにならないでしょう?」
「いいえ、うちのおとうさまは、明智探偵のファンなのよ。その明智探偵の弟子のマユミさんの、またその弟子になるのですから、おとうさま、きっとゆるしてくださるわ。」
森下トシ子ちゃんがいいますと、淡谷スミ子ちゃんも口をそろえて、
「うちでは、ずっとまえに、宝石やお金がたびたびなくなることがあって、泥坊はうちのものかもしれないというので、警察にいわないで、明智先生に相談したことがあるんです。すると、明智先生がうちへいらしって、みんなをしらべて、すぐに犯人を見つけてくださったのよ。
うちのじいやに悪いむすこがあって、その人がぬすんでいたのです。じいやが、むすこをかばって、かくしていたので分からなかったの。
明智先生は、そのじいやのむすこによくいいきかせて、改心させてしまいなすったのよ。ですから、うちのおとうさまも、明智先生の大ファンなの、きっとゆるしてくださるわ。」
ふたりとも、一生けんめいにたのむものですから、マユミさんもこんまけして、明智探偵に相談したうえ、とうとうお弟子にすることを、しょうちしました。
しかし、それには、約束があったのです。学校の時間中は、けっして探偵のこ…