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男性に対する主張と要求
だんせいにたいするしゅちょうとようきゅう
作品ID57111
著者伊藤 野枝
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」 學藝書林
2000(平成12)年5月31日
初出「婦人公論 第一年第二号」1916(大正5)年2月号
入力者酒井裕二
校正者持田和踏
公開 / 更新2024-01-21 / 2024-01-09
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 未来の予想と云ふやうな事は余程確実な根底をもつてゐなければ出来ないことで、また外れ易いものだと思ひます。
 今までの経過を考へて、また現在の状態を観て、さて此度は必ず斯くあるべき筈だ。と思へば、本当にさうなるより他には行く道がないやうに考へられる事なのに、割合に、その予想はあてにならないもので、もつと意外な方に道を開いて来る事が多いやうに思はれます。今後の婦人問題、と云ふやうな事も矢張りさうした予想の一つで御座います。
 私は、それでなるべく予想と云ふやうなものはし度くないのです。それは勘定に入れた予想の内容よりも更に大きな予想外と云ふものにおしつぶされて桁が狂ふてその為めに、余計な心配をしなければなりませんから、私は一切無勘定でも其場々々をチヤン/\と踏んで行きさへすれば必ず行く処に行けると云ふ確信を持つて居ります。
 一体、問題と云ひますと、大変大げさに聞こえますが、これはそんなに鹿爪らしい内容のものではないやうに思はれます。何んな些細な事でも問題にする事が出来ます。日常のお掃除のこと、唐紙の開けたてから、御飯の出来加減まで、一々、問題にしやうと思へば自由自在に問題にする事が出来ます。先づそのやうに、婦人問題と云ふこともそれ程、鹿爪らしく大げさに問題にしまいと思へばそれでも済む事なのです。決して特殊な事柄でも何でもないと、私等は考へます。六ヶ敷考へればきりはありませんが、手軽に考へられない事は決してないと、私は思ひます。
 何故婦人問題と、女の事を問題にするやうになつたか? もつと一般に社会の慣習と云ふものが失くなり、凡てが自由になつて来れば、そんな事を自然と問題にするにはあたらないと思ひます。たゞ何故に問題になつたかと云へば、それは男子によつて抑えられ蹴落されて奴隷としての生活しか持つことの出来ない女が、もと/\のやうに男子と同等の地位を得男子と同等の自由を得やうとする欲望を起して、その欲望に向つて自分を動かし初めたのが問題の原因であります。これは少しも無理のない事ですが長い間の習慣と云ふものが多くの人達の血球の中にまでしみ込んで非常な力をもつて反対のものを圧迫する力と、その婦人達の考へをはきちがへたのとで、大きな問題になつて仕舞つたのです。
 男子と同等の地位、と聞くと浅墓な考へを持つ男達は直ぐ今日から自分達の職業や社会的地位をとられたり、面倒な家庭の仕事を分担させられたり、自分達が勝手に遊び歩いたり、酒を飲んだりするやうに、女が同一な事をするやうに考へたりするし、また女達は女達で、お転婆な馬鹿な女達はいゝ気に生半可な理屈を云つて男子をまるで自分の敵でも見つけたやうに、身の程わきまへず罵倒したり、殊更に大胆な真似をする、煙草を飲む、酒を飲む、恋愛の自由などゝ、飛んでもない処に厳粛な理屈を鵜呑みに流用して不見識な関係をもつたり、一切、女のする仕事をす…

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