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婦人の反省を望む
ふじんのはんせいをのぞむ
作品ID57124
著者伊藤 野枝
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」 學藝書林
2000(平成12)年5月31日
初出「第三帝国 第三八号」1915(大正4)年4月25日
入力者酒井裕二
校正者笹平健一
公開 / 更新2025-01-21 / 2025-01-20
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

『女賢しうして牛売り損ふ』或はまた、『女の智恵は猿智恵』等と昔から日本の婦人は一方ならず今日迄、侮辱され続けて来ました。そして昔とちがつて今日では婦人も相当な教育の道が開かれて多くの教養ある婦人が輩出するに至つてもなをこの侮辱は続けられてまゐりました、私たちはそれを残念にも口惜しくも思ひますけれど、見渡した処僅かな人々をのぞくの他はまだ私共は大ぴらにこの侮辱を否定する訳けにはまゐりません。
 今日婦人の為めに新聞雑誌など云ふものが幾種類も出来てゐます。そしてこの後もずんずん殖えては行くでせうがその殆んどすべてを通じてどんな内容をもつてゐるかと申しますと、それは大方の人々が知つてゐるやうにそれは低級な子女の何の訓練も加へられない情緒を猥りに乱すやうなのや、それでなければ善良な家庭の主婦達の安価なよみものに過ぎません。
 日本の婦人雑誌で一番多数の読者を持つてゐると云はれる『婦人世界』はその最も安つぽさを振りまはしてゐる点では恐らく矢張り一番であらうと思はれます。その内容は一目見ても何の思慮も分別もなしに吐き出された『何々夫人の経験談』『何々夫人の苦心談』『某夫人の夫を助けて何々せし談』等がかずかぎりもなく記載されてあります。
 併し私はこれ等の事実談を辛抱してよんで見ても未だ且つて何の感動をも感銘をも得ません。私は何時も自慢気な夫人達の手柄話の裏にひそんでゐる、幾多のより興味深き事実を見出します。そしてそれ等の最も多くの人だちに提供せらるべき本当の経験を彼女等が辱づべき事自己の醜きところとして秘しかくしてゐるのを見る度びに私は一種の侮蔑の念を抑へることが出来ません。
 彼等は一寸他聞きのいゝ理屈を云ふことが如何にも上手です。一寸は他を肯づかせるやうなうまい事を云ふのが上手です。けれど彼等はすべての物の大本を考へることにつとめません。だから如何にも融通がきゝません。だから、何でもない一寸した小葛藤をほぐすことが出来たといつては自慢を云ひます。一寸した台所まはりの工夫をしたと云つては手柄顔になる、息子や娘が自分の思ふとほりに育つといつては自慢する、一寸した廃物利用を考へたと云つては大きなかほする。本当に下らなくてお話になりません。併し誤解されては困ります。私はそれ等のおもひつきをわるいことだとは決して云ひません。つまらないことゝもけつして云ひません。たゞ私はあまり当然な一寸した事を手柄顔に吹聴されると云ふことが下らないと思ふのです。前に私のあげたことの数々は皆んな家政と云ふものゝ外廓ばかりであります。私はその人たちが其処までたどりついた迄の努力は本当に尊く思ふけれど私はまだその努力をもつと物の根本に向つて転換させることを主張したいのです。根本のしつかりした考へさへきまれば枝葉の問題は何の苦労もなくとけてゆきます。
 大方の今の日本婦人の仕事の全体は家事と育児位なも…

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