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編輯室より
へんしゅうしつより
作品ID57141
副題(一九一六年一月号)
(せんきゅうひゃくじゅろくねんいちがつごう)
著者伊藤 野枝
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」 學藝書林
2000(平成12)年5月31日
初出「青鞜 第六巻第一号」1916(大正5)年1月号
入力者酒井裕二
校正者雪森
公開 / 更新2017-04-20 / 2017-03-11
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

□もう私が雑誌を譲り受けまして丁度一年になります。どうかしたい/\と思ひながら微力で思つた十分の一も実現することがなく無為に一年を過しました。今月号も新年号の事とてどうにかしたいと思つてゐましたが何しろ、私が帰京しましたのが十二月五日か六日だつたのにそれから一週間ばかりの間は咽喉をはらして食事をすることも話をすることも困難になつて何にも出来ませんでした為めに、大変手ちがひになつて今度もまたおはづかしいものをお目に懸けます。けれども私も身軽になつてかへつて来ましたからこれからは少し懸命に働きたいと思つてゐます。だん/\に少しづゝでも努力のあとが現はれるやうにしたいとおもつてゐます。何卒皆様にも一層御尽力を願つて共に育てゝゆきたいと思ひます。
□何時かも申ましたやうに、自分たちの勉強の為めにも何かの問題をとらへて皆で研究すると云ふのはいゝ事だと思ひます。それで次号から私は自分の書きたいものゝ外に何か思想上の実際的な問題をさがしてそれについて書かうと思ひます。そしてそれを皆様の仰言つた事と一緒に批評して頂きたいのです。一句でも一章でもいゝのです。そして出来るだけ発表する為に次号で六号欄を別に設けて其処で発表するやうにしたいのです。何卒お互ひに勉強のたしになる事ですから賛成して頂きたいと思ひます。それには実際読者諸姉の現在考へ悩んでゐらつしやるやうな事をさうして大勢の最も進んだ意見をお聞きになつてお考へになるのもいゝ一つの方法だと思ひます。さう云ふ方面での材料をお持ちになる方は私迄おしらせ下されば大変にいゝと思ひます。勿論決してお名前を出すやうな事はしませんし、私も知らなくてもいゝのです。
□平塚さんは九日にお嬢さんをお産みになりました。お産は少し重かつたやうですが、その後の経過は大変いゝやうです。哥津ちやんも一日ちがひに男のお子さんをお産みになつたさうです、まだ会ひません。
□平塚さんのお産をなすつた翌日位に何でも新聞記者が訪ねて行つたのを附添の人が知らずに上げました処、「御感想は?」と聞いたさうです。私はあんまりの事に本当に怒りました。何と云ふ無作法な記者だらうとまだお見舞の人も遠慮して得ゆかないお産室に、一面識もない者が新聞の材料をとりにゆくつて、何と云ふ人を侮辱した仕方でせう。私は頭が熱くなる程、腹が立ちました。平塚さんは洗面台の上にのせた花の鉢を指さして、「この花と私の感想を交換するつもりで来たのですよ、私は苦しいと云ふより他何の感想もありませんつて云つてやりました。」と話されました。私はさうした侮辱も黙つて許してお聞きになる平塚さんの気持を考へてゐると涙がにじんで来ます。何卒皆さんが幸福であるやうにと祈るより他はありません。
□私は「雑音」と云ふ題でかねてから書きたいと思つてゐました長篇を書きはじめました。青鞜に載せるのが私の望みでしたけれども種々な事情…

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