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負けない男
まけないおとこ
著者佐々木 邦
文字遣い新字新仮名
底本 「佐々木邦全集2 次男坊 負けない男 凡人伝 短篇」 講談社
1974(昭和49)年11月20日
初出「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月
入力者橋本泰平
校正者芝裕久
公開 / 更新2020-11-10 / 2020-10-28
長さの目安約 207 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

堀尾の小旦那

 就職難といっても、その頃は世の中が今日ほど行き詰まっていなかった。未だ/\、大学即ち帝大の時代で、一手販売だったから、贅沢さえ言わなければ、新学士は何処かにはけ口があった。その証拠に、堀尾君の同期生は半数以上身の振り方が定っていた。それが卒業と共にポツ/\赴任する。○高以来六年間毎日顔を合せて来た連中も今やチリ/″\バラ/\になる。送別会が頻繁にあった。
「おい。又明日の晩あるよ」
 と同じく卒業したばかりの間瀬君が堀尾君を訪れた。
「誰だい?」
「伊丹さ」
「彼奴は満鉄だったね?」
「然うさ。一番遠いんだから、特別に都合して出てやってくれ給え」
「出るには出るが、何うだね? 二三人宛束にしてやる法はなかろうか?」
「それも考えている」
「大変だろう?」
「何あに」
「いや、実際御苦労だよ」
 と堀尾君は犒った。世話好きの間瀬君は○高会の幹事をしている。
「何うせ閑だもの」
「郵便じゃ間に合わないのかい?」
「遠いところは横着を極めて郵便でやるが、本郷区は廻って歩く。皆の情勢偵察かた/″\さ」
「追々片付くね」
「うむ。好くしたものさ。山下が台湾銀行へ行くよ」
「ふうむ」
「太田も北海道の炭鉱鉄道へ定るらしい。皆遠いよ、成績の好くない奴は」
「成績よりも情実だぜ」
「それも確かにあるね。立川なんかが三菱へ入っているんだもの」
「君は送別の辞ばかりやっていて、未だ何処へも定らないのかい?」
「僕は運動を思い切った」
「何うして?」
「僕の成績じゃ無理だよ」
「そんなに謙遜することはない。当って砕けろだ」
「実は三回当って見たが、美事撃退さ」
「僕も一回失策った。余り態の好いものじゃない」
「君のは銓衡委員と議論をしたからさ。僕のはヘイ/\言っていて、サン/″\取っ占められた上に、おっ投り出されたんだから、思い出しても腹が立つ」
「僕はもう諦めた。お願い申して縛られたくない」
「食える奴は贅沢なことを言うよ。奥田君も然うだろう?」
「さあ。郷里へ帰るとも言っている」
「君と奥田君と尾崎君だな、連中で所謂銀の匙を銜えて生れて来たのは」
「僕は駄目だよ。次男坊だ」
「藪医者の四男坊よりは好かろう」
「何うだかね」
「いや、斯うやって落ちついちゃいられないぞ」
 と間瀬君は差当りの用件を思い出した。
「まあ宜いじゃないか?」
「これから飛脚だ。彼方此方廻らなければならない」
「奥田君へは僕から知らせよう」
「実はそれを頼もうと思って、真先に寄ったんだ。何うせ今晩行くだろう? ヘッヘ」
「ヘッヘとは何だい?」
「笑ったのさ」
「何が可笑しい?」
 と訊いたものゝ、堀尾君は覚えず相好が弛んだ。
「非公式に一寸祝意を表したのさ」
「何の?」
「未だ白ばっくれるのかい? 君は奥田君の妹を貰うんだろう?」
「さあ」
「何うだい? 図星だろう?」
「君の想像に委…

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