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右門捕物帖
うもんとりものちょう
作品ID572
副題19 袈裟切り太夫
19 けさぎりたゆう
著者佐々木 味津三
文字遣い新字新仮名
底本 「右門捕物帖(二)」 春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日
入力者tatsuki
校正者柳沢成雄
公開 / 更新2000-08-10 / 2014-09-17
長さの目安約 47 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     1

 ――このたびはその第十九番てがら。
 前回の名月騒動が、あのとおりあっけなさすぎるほどぞうさなくかたづきましたので、その埋め合わせというわけでもありますまいが、事の端を発しましたのは、あれから五日とたたないまもなくでした。もちろん旧暦ですから、九月も二十日を越えると、大江戸もこれからがもみじの秋で、上野のお山の枝々こずえに、ちらほらとにしき模様が見えるようになるといっしょで、決まったように繁盛しだすのは浅草と両国河岸の見せ物小屋です。このとき浅草で評判とったのが、上方下りの生き人形に、隼伝之丞の居合い抜き、両国河岸のほうでは、娘手踊りに中村辰太夫が勧進元のさるしばいでした。さらでだに夏枯れどきのご難をうけたあとで、太夫元も見物も飢えきっていたときなんだから、いざ評判がたったとなると、一座の者も大馬力だが、見物客もまたたいした力の入れ方で、頼まれもしないのに、口から口へ、町内から町内へ自まえの宣伝係をつとめたものでしたから、耳八丁口八丁のわが親愛なるおしゃべり屋伝六が、たちまちこれを小耳にはさんで、たちまちこれを名人のところへ吹聴にやって来たのはあたりまえなことでした。
「ね、だんな、性得あっしゃこの秋っていうやつが気に食わねえんでね。だからってえわけじゃござんせんが、せっかくの非番びよりに、生きのいいわけえ者がつくねんととぐろを巻いていたって、だれもほめてくれるわけじゃござんせんから、ひとつどうですかね、久方ぶりに浅草へのすなんてえのもあだにおつな寸法だと思うんだが、御意に召しませんかね」
「…………」
「ちぇッ。親のかたきじゃあるめえし、あっしがものをいいかけたからって、なにもそう急に空もよう変えなくたってもいいじゃござんせんか。そりゃ、あっしゃ口うるせえ野郎です。ええ、そうですよ、そうですよ。辰みてえにお上品じゃござんせんからね。さぞやお気に入らねえ子分でござんしょうが、なにもあっしが行きたくてなぞかけるんじゃねえんだ。あのとおり、辰の野郎がまだ山だしで、仁王様に足が何本あるかも知らねえんだから、こんなときにしみじみ教育してやったらと思うからこそいうんですよ」
「…………」
「伝之丞の居合い抜きが殺風景だというんなら、生き人形なぞも悪くねえと思うんですがね」
「…………」
「それでも御意に召さなきゃ、ことのついでに両国までのすなんてえのも、ちょっと味変わりでおつですぜ」
「…………」
「聞きゃ、娘手踊りと猿公のおしばいが、たいそうもねえ評判だってことだから、まずべっぴんにお目にかかってひと堪能してから、さるのほうに回るなんてえのも、悪い筋書きじゃねえと思うんですがね。あっしのこしれえたお献立じゃ気に入りませんかね」
「…………」
「ちぇッ。何が御意に召さなくて、あっしのいうことばかりはお取り上げくださらねえんですかい。天高く馬肥えるって…

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