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![]() ぜにがたへいじとりものひかえ |
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作品ID | 57203 |
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副題 | 239 群盗 239 ぐんとう |
著者 | 野村 胡堂 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「銭形平次捕物控 鬼の面」 毎日新聞社 1999(平成11)年3月10日 |
初出 | 「サンデー毎日」毎日新聞社、1950(昭和25)年9月3日号~17日号 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 結城宏 |
公開 / 更新 | 2017-06-17 / 2017-05-31 |
長さの目安 | 約 54 ページ(500字/頁で計算) |
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【第一回】
一
「親分、ありゃ何んです」
観音様にお詣りした帰り、雷門へ出ると、人混みの中に大変な騒ぎが始まって居りました。眼の早い八五郎は、早くもそれを見付けて、尻を端折りかけるのです。
「待ちなよ、八、喧嘩か泥棒か喰い逃げか、それとも敵討ちか、見当もつかねえうちに飛込んじゃ、恥を掻くぜ」
平次は若駒のようにはやり切った八五郎を押えて、兎にも角にも群衆をかきわけました。
「はいよ、御免よ」
などと、八五郎は声を張りますが、場所が場所なり日和もよし、物好きでハチ切れそうになって居る江戸の野次馬は、事件を十重二十重に囲んで、八五郎の蛮声でも道を開いてはくれません。
その間に誰が気が付いたものか、
「銭形の親分だよ、道を開けなきゃ――」
などと言うものがあり、やがて道は真二つに割れます。
群衆の中に、居疎んだのは二人の若い男女、男の方は三十前後の町人風で、女の方は十八、九の旅姿の娘、これは非凡の美しさですが、何処か怪我をした様子で、身動きもならず崩折れましたが、それを介抱している男の方も、額口を割られて、潮時のせいか、鮮血が顔半分を染めて居ります。
「どうしたんだえ、これは?」
平次は、兄妹とも夫婦とも見える、この二人の前に突っ立ちました。
「ヘェ」
「怪我をして居るじゃないか」
「危なく返り討ちになるところでした――、親分さんが、お出で下さらなきゃ」
若い男は、血だらけの顔を振り仰ぐのです。
色白で少しのっぺりして居りますが、なかなかの好い男です。縞物の地味な袷、小風呂敷包みを、左の手首に潜らせて、端折った裾から、草色の股引が薄汚れた足袋と一緒に見えるのも、ひどく手堅い感じでした。
「返り討ちは穏やかじゃ無いな、――一体どうしたというのだ、いや、此処じゃ人立ちがして叶わない、八、其辺の茶店の奥を借りるんだ、お前は娘さんを――」
平次は眼顔で八五郎に合図すると、直ぐに傍の茶店の奥へ、若い男をつれ込みました。
その後から、旅姿の娘に肩を貸して、同じ茶店の奥へ入って来る、八五郎の甘酸っぱい顔というものは――
何しろ娘の可愛らしさは非凡でした。旅姿も舞台へ出て来た名ある娘形のようで、汗にも埃にも塗れず、芳芬として腋の下から青春が匂うのです。
「先ず、その傷の手当をするがよい」
奥へ入った平次は、若い男の右小鬢の傷を、茶店で出してくれた焼酎で洗って、たしなみの膏薬をつけ、ザッと晒木綿を巻いてやりました。打ちどころが悪くて、ひどく血は出しましたが、幸い大した傷では無く、こうして置けば四、五日で治りそうにも見えます。
「まア/\こんなことで済んでよかったよ、ところで、深いわけがありそうだが、それを聴かして貰おうか」
「有難うございます、銭形の親分さんだそうで、飛んだところで、良い方にお目にかかりました」
「敵討ちが望みなら、強そうな武者修行か…