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怪人と少年探偵
かいじんとしょうねんたんてい
作品ID57225
著者江戸川 乱歩
文字遣い新字新仮名
底本 「江戸川乱歩全集 第23巻 怪人と少年探偵」 光文社文庫、光文社
2005(平成17)年7月20日
初出「こども家の光」家の光協会、1960(昭和35)年9月~1961(昭和36)年9月
入力者sogo
校正者北川松生
公開 / 更新2016-06-30 / 2016-03-04
長さの目安約 75 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


作者のことば


 怪人二十面相はまほうつかいのようなふしぎなどろぼうです。二十のちがった顔を持つといわれる変そうの名人です。名探偵明智小五郎の助手小林少年と少年探偵団の団員たちは、この怪人をむこうにまわして、ちえの戦いをいどむのです。
「こども家の光」昭和三十五年八月号


[#改ページ]

どろぼう人形

 ここは東京のまんなかにある、大きなデパートの男の洋服売り場です。時は、まよなかです。
 まよなかのデパートは、昼間のこんざつにひきかえて、ものすごいほど、静かです。
 ちん列台には、みな白いきれがかけてあるので、まるで白い墓がならんでいるようなかんじです。
 守衛が二人ずつ一組になって、大きな懐中電灯をてらしながら、たえずデパートの中を、見まわっています。いま、ちょうど、二人づれの守衛が、洋服売り場へやってきました。
 売り場には、洋服のきれじなどが、いっぱいかけてあります。そのまえに、洋服をきた男の人形が、いくつも立っているのです。
 懐中電灯のまるい光が、その人形の一つの顔を、てらしました。
 はでな、しまのせびろをきた人形です。その顔は、色のついたビニールをぬったもので、できていて、目やまゆげが、黒い絵の具で、書いてあるのです。
 懐中電灯の光は、その顔を、スッと、かすめて、むこうへ、遠ざかっていきました。
 そして、二人の守衛の姿が、階段のほうへ、消えていったかとおもうと、へんなことがおこりました。
 いまの人形が、かすかに身うごきをしたのです。遠くに小さな電灯が、ついているだけで、あたりは、うすぐらいのですが、たしかに人形は、動いたようです。
 それから、もっと、みょうなことが、始まったのです。人形の手が、そっと上のほうへ、あがっていって、目のへんを、なでました。すると、人形の目がパッチリ、開いたではありませんか。目のところだけが、ふたのように開くしかけになっているらしいのです。
 その開いた、二つのあなから、のぞいているのは、生きた人間の目でした。パチパチと、まばたきをして、目の玉が、キョロキョロと、動くのです。
 人形のからだが、フラフラと、ゆれたかとおもうと、足を高く上げて、そのちん列場の、ひくいかこいを、またぎこし、そのまま、通路を歩いていくではありませんか。
 人形が歩くのです。
 やがて、人形は、階段を上り始めました。うすぐらい階段を、まるでむ遊病者のように、のぼっていくのです。階段を二つのぼると、そこは時計や宝石の売り場でした。
 人形は、宝石のちん列だなにかぶせてある、白いきれをまくると、ポケットから、合鍵をとりだして、あついガラスの戸をあけました。
 そして、ちん列だなの中へ、手を入れて、ダイヤのゆびわや、真珠の首かざりなどを、手あたりしだいに、つかみとると、それをみんな、自分のワイシャツの中の…

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