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![]() かいじんにじゅうめんそう |
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作品ID | 57226 |
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著者 | 江戸川 乱歩 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「江戸川乱歩全集 第21巻 ふしぎな人」 光文社文庫、光文社 2005(平成17)年3月20日 |
初出 | 「たのしい一年生」講談社、1959(昭和34)年11月~1960(昭和35)年3月<br>「たのしい二年生」講談社、1960(昭和35)年4月~1960(昭和35)年12月 |
入力者 | sogo |
校正者 | 北川松生 |
公開 / 更新 | 2016-06-09 / 2016-03-04 |
長さの目安 | 約 26 ページ(500字/頁で計算) |
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1
ある日、しょうねんたんていだんのぽけっと小ぞうは、ひとりで、さびしいのはらをあるいていました。
ぽけっと小ぞうは、小がっこう四ねんせいですが、ようちえんのせいとみたいにからだが小さくて、ぽけっとにでもはいりそうだというので、こんなあだながついているのです。
のはらには、はやしがあって、そのむこうに、りっぱなようかんがたっていました。
大きな三がいだてのいえです。
ぽけっと小ぞうは、そのようかんが、あまりへんなかっこうをしているので、そばまでいってみました。このへんにはいえがなく、このようかんだけが、ぽつんとたっているのです。
その、れんがのへいのそとをあるいていると、どこからか、「きゃあ」というさけびごえがきこえてきました。
びっくりして、あたりをみまわすと、ようかんの三がいのまどが、一つだけあいています。
十ぐらいの女の子が、そこからからだをのりだすようにして、たすけをもとめていました。ぽけっと小ぞうは、すぐ、ぽけっとから小がたのぼうえんきょうをとりだして、目にあてました。
この小さいぼうえんきょうは、しょうねんたんていだんの七つどうぐの一つで、いつでももちあるいているのです。ぼうえんきょうの中に、女の子のかおが、大きくうつりました。そのかおが、とてもこわそうに、目をいっぱいにひらいて、たすけをもとめているのです。
そのとき、ぼうえんきょうの中の女の子のうしろに、大きな、きみのわるいものが、ぼんやりとうつりました。
あっ、らいおんです。たてがみのある、大きならいおんが、いまにも、女の子にとびつきそうにしているのです。
「きゃあ」
また、ひめいがきこえました。
ぽけっと小ぞうは、いきなりかけだしました。そして、ちかくのこうばんをさがして、そのことをしらせたのです。
おまわりさんは、びっくりして、ふたりづれで、そのようかんにかけつけました。
げんかんのべるをおすと、中から、白いあごひげのあるおじいさんがでてきました。
「わしは、このいえのしゅじんだが、うちには、そんな女の子はいない。まして、らいおんなど、いるはずがない。その子どもは、ゆめでもみたんだろう。はははは」
とわらいとばすのでした。
おまわりさんは、しかたがないので、そのままひきあげてしまいました。
けれど、ぽけっと小ぞうは、どうしてもあきらめることができません。よるになるまで、ようかんのまわりをあちこちあるきながら、もう一ど女の子のかおがみえないかと、まちかまえていました。でも、あのまどは、もうしまっていて、しいんとしています。
よるになると、ぽけっと小ぞうは、もんの中へしのびこみました。
ぽけっと小ぞうは、こっそりと、ようかんのよこへまわっていきました。
すると、一かいの一つのまどに、あかりがついています。のぞいてみると、そこに、さっきの女の子がいるで…