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![]() ふしぎなひと |
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作品ID | 57230 |
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著者 | 江戸川 乱歩 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「江戸川乱歩全集 第21巻 ふしぎな人」 光文社文庫、光文社 2005(平成17)年3月20日 |
初出 | 「たのしい二年生」大日本雄弁会講談社/講談社、1958(昭和33)年8月~1959(昭和34)年3月<br>「たのしい三年生」講談社、1959(昭和34)年4月~12月 |
入力者 | sogo |
校正者 | 北川松生 |
公開 / 更新 | 2016-07-16 / 2016-06-10 |
長さの目安 | 約 91 ページ(500字/頁で計算) |
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1 マントにんぎょうのまき
きむらたけしくんは、しょうがっこうの二ねん生で、とうきょうのひろいおうちにすんでいました。
おとうさんは、あるかいしゃのしゃちょうさんです。
きむらたけしくんのおうちのちかくに、ふしぎなせいようかんがあって、そこにふしぎな人がすんでいました。
二かいだてのふるいせいようかんで、そのまわりは、木のいっぱいはえたにわでかこまれていました。
このふしぎないえのふしぎな人は、林さんという、四十ぐらいのおじさんでした。
おくさんも子どももなく、たったひとりで、そのひろいせいようかんにすんでいるのです。
きんじょの人たちは、このせいようかんをばけものやしきといっていました。また、そこにひとりですんでいる林さんを、まほうつかいとよんでいました。
ところが、きむらたけしくんのおとうさんは、このふしぎな人とだいのなかよしだったので、林さんは、たけしくんのおうちへよくあそびにきました。
おとうさんはたけしくんと、いもうとのしょうがっこう一ねん生のきみ子ちゃんに、よくこんなふうにいってきかせるのでした。
「林さんはかわりものだが、けっしてわるい人じゃない。たいへんちえがあるのだよ。そのちえで、いろいろふしぎなことをやってみせるので、まほうつかいのようにみえるだけなのさ」
たけしくんもきみ子ちゃんも、林さんとなかよしになっていました。
ある日のごご三じごろのことです。たけしくんときみ子ちゃんは、林さんのおうちのにわであそんでいました。たくさんの木にかこまれたひろいしばふにこしをおろして、林さんのおはなしをきいていたのです。
林さんはくろいふくをきて、大きなくろいネクタイをとんぼむすびにしていました。
ふちなしの四かくなめがねをかけ、ぴんとはねた口ひげと、三かくのあごひげがあります。いかにもせいようのまほうつかいみたいなかっこうです。
その林さんが、こんなことをいいだしました。
「きみたちに、おもしろいものをみせてあげようか。びっくりするようなものだよ。わたしは、むこうの木のしげみにかくれるからね。すると、あそこのしいの木のねもとから、小さいものがあらわれるのだ。よくみているんだよ」
そういって、林さんは、しいの木のむこうのしげみの中へはいっていきました。
たけしくんと、きみ子ちゃんは、むねをわくわくさせながら、そのしいの木の下を、じっとみつめていました。
あたりは、しいんとしずまりかえっています。はるのおてんきのよい日で、しばふには、日がてっています。でも、しいの木のへんからむこうは、木のはがしげっているので、すこしうすぐらいのです。
「おじさん、なにをみせてくれるんだろうね」
たけしくんがいいますと、きみ子ちゃんは、にいさんのかおをみつめながら、「あたし、こわいわ」と、いかにもきみわるそうにささやくのでした。
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