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黄金仮面
おうごんかめん
作品ID57241
著者江戸川 乱歩
文字遣い新字新仮名
底本 「江戸川乱歩全集 第7巻 黄金仮面」 光文社文庫、光文社
2003(平成15)年9月20日
初出作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月
入力者門田裕志
校正者nami
公開 / 更新2021-07-28 / 2021-06-28
長さの目安約 292 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


作者――江戸川乱歩氏曰く

 私は、最近、従来の「小探偵小説」を脱して、もっと舞台の広い「大探偵小説」へ進出したいと思っている。今回の『黄金仮面』は実にその第一歩である。
 本篇活躍の主人公は、例のお馴染の素人探偵明智小五郎であるが、彼も段々に成長しつつある。今度の小説では相当大きい活躍が出来る筈だ。相手役の悪魔は恐らく読者を驚かせるに足る人物だと信じている。作者はその驚くべき人物を、果してよく扱いこなせるかどうかを自ら危む程であるが、そこがまた本篇執筆について作者が一層興味を感じている所以でもある……

「キング」昭和五年八月号


[#改ページ]

金色の恐怖

 この世には、五十年に一度、或は百年に一度、天変地異とか、大戦争とか、大流行病などと同じに、非常な奇怪事が、どんな悪夢よりも、どんな小説家の空想よりも、もっと途方もない事柄が、ヒョイと起ることがあるものだ。
 人間社会という一匹の巨大な生物が、何かしらえたいの知れぬ急性の奇病にとりつかれ、一寸の間、気が変になるのかも知れない。それ程常識はずれな、変てこな事柄が、突拍子もなく起ることがある。
 で、あのひどく荒唐無稽な「黄金仮面」の風説も、やっぱりその、五十年百年に一度の、社会的狂気の類であったかも知れないのだ。
 ある年の春、まだ冬外套が手離せぬ、三月初めのことであったが、どこからともなく、金製の仮面をつけた怪人物の風評が起り、それが人から人へと伝わり、日一日と力強くなって、遂には各新聞の社会面を賑わす程の大評判になってしまった。
 風評は非常にまちまちで、謂わば取りとめもない怪談に類したものであったが、併しその風評に含まれた、一種異様の妖怪味が、人々の好奇心を刺戟した。随って、この新時代の幽霊は、東京市民の間に、非常な人気を博したのである。
 ある若い娘さんは、銀座のショウウインドウの前で、その男を見たと云った。真鍮の手すりにもたれて、一人の背の高い男が、ガラス窓の中を覗き込んでいたが、ソフト帽のひさしを鼻の頭まで下げ、オーヴァコートの襟を耳の上まで立てて、顔をすっかり包んでいる様子が、何となく変だったので、娘さんは窓の中の陳列品に気をとられている様な風をして、首を延ばして、不意にヒョイと男の顔を覗いてやったという。すると、帽子のひさしと、外套の襟との僅か一寸ばかりの隙間から、目を射る様にギラギラと光ったものがある。ハッとして、青くなって、娘さんは男の側を離れてしまったが、男の顔は、古い鍍金仏みたいに、確かに確かに、無表情な黄金で出来ていたということだ。
 胸をドキドキさせて、遠くの方から眺ていると、男は、正体を見顕された妖怪の様に、非常に慌てて、まるで風にさらわれでもした様に、向うの闇と群集の中にまぎれ込んでしまった。男の覗いていたのはある有名な古物商の陳列窓で、…

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