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何者
なにもの
著者江戸川 乱歩
文字遣い新字新仮名
底本 「江戸川乱歩全集 第7巻 黄金仮面」 光文社文庫、光文社
2003(平成15)年9月20日
初出「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日
入力者門田裕志
校正者入江幹夫
公開 / 更新2020-07-28 / 2020-06-27
長さの目安約 78 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#ページの左右中央]


作者の言葉

 犯人は最初から読者の目の前にいながら最後までどれが犯人だか分らない。と云うのが所謂本格探偵小説の一つの条件みたいになっています。なるべくその条件に適わせることを心掛けました。敏感な読者は四五回も読まぬ内に犯人が分ってしまうかも知れません。又探偵小説に不慣れな読者には、最後までそれが分らないかも知れません。丁度その辺の所を狙ってある訳です。知識的遊戯として、謎々を解く気持でお読み下されば結構です。

「時事新報(夕刊)」昭和四年十一月十九日、二十四日


[#改ページ]

一、奇妙な盗賊

「この話はあなたが小説にお書きなさるのが当然です。是非書いて下さい」
 ある人が私にその話をしたあとで、こんなことを云った。四五年以前の出来事だけれど、事件の主人公が現存していたので憚って話さなんだ。その人が最近病死したのだ。ということであった。
 私はそれを聞いて、成程当然私が書く材料だと思った。なにが当然だかは、ここに説明せずとも、この小説を終まで読めば自然に分ることである。
 以下「私」とあるのは、この話を私に聞かせてくれた「ある人」を指す訳である。

 ある夏のこと、私は甲田伸太郎という友人に誘われて、甲田程は親しくなかったけれど、やはり私の友達である結城弘一の家に、半月ばかり逗留したことがある。その間の出来事なのだ。
 弘一君は陸軍省軍務局に重要な地位を占めている、結城少将の息子で、父の邸が鎌倉の少し向うの海近くにあって、夏休みを過すには持って来いの場所だったからである。
 三人はその年大学を出たばかりの同窓であった。結城君は英文科、私と甲田君とは経済科であったが、高等学校時代同じ部屋に寝たことがあるので、科は違っても、非常に親しい遊び仲間であった。
 私達には、愈々呑気な学生生活にお別れの夏であった。甲田君は九月から東京のある商事会社へ勤めることになっていたし、弘一君と私とは兵隊にとられて、年末には入営である。何れにしても、私達は来年からはこんな自由な気持の夏休みを再び味えぬ身の上であった。そこで、この夏こそは心残りのないように、充分遊び暮そうというので、弘一君の誘いに応じたのである。
 弘一君は一人息子なので、広い邸を我物顔に、贅沢三昧に暮していた。親爺は陸軍少将だけれど、先祖がある大名の重臣だったので、彼の家は却々のお金持ちである。随ってお客様の私達も居心地が悪くなかった。そこへ持って来て、結城家には、私達の遊び友達になってくれる、一人の美しい女性がいた。志摩子さんと云って、弘一君の従妹で、ずっと以前に両親を失ってから、少将邸に引取られて育てられた人だ。女学校をすませて、当時は音楽の稽古に熱中していた。ヴァイオリンは一寸聞ける位弾けた。
 私達は天気さえよければ海岸で遊んだ。結城邸は由井ヶ浜と片瀬との中間位の所にあ…

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