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異魚
いぎょ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎集 第七巻」 岩波書店
2001(平成13)年4月5日
初出「文藝春秋 第三十巻第十七号」文藝春秋新社、1952(昭和27)年12月1日
入力者kompass
校正者岡村和彦
公開 / 更新2018-09-12 / 2018-08-28
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ロフティングの『ドリトル先生アフリカ行』の中に、名前は忘れたが、アフリカでもめったに見られない珍獣中の珍獣ともいうべき動物の話が出ている。それは頭と尻と両方に首がある動物のことである。眼も口も耳もぜんぶ揃った首が、両方にあるので、一方の口で物を食べながら、いま一方の口でお喋りができる。それで「ものを口に入れながら話をするというような御行儀の悪いことはけっしてしない」礼儀正しい動物なのである。
 ロフティング先生、あまり馬力をかけて、大まじめになって、この珍獣のことを書いているので、本当にアフリカには、こういう動物がいるのかと、ついだまされそうになるくらいである。もちろんこれはお伽噺であって、いくらアフリカでも、そんなべらぼうな動物がいるはずはない。
 ところが、話が魚になると、この珍獣を地でいったような奇魚が、アフリカには本当にいるのである。以前に、『イグアノドンの唄』という大人のための童話を書いたことがあるが、その中の主人公の一人、すなわち南アフリカ喜望峰の一角に突如として出現した一億年前の化石魚シーラカンスなども、もちろんその一つである。しかしそういう異例的な話でなく、アフリカ奥地の川に現在棲んでいる魚の中にも、ちょっとわれわれの想像を絶する奇妙な魚がいる。その一つは「四つ目魚」である。これは八つ目鰻や、蝶々魚の一種の四つ目魚とはちがう。それ等は眼のような形または模様から名づけられたのであるが、その「四つ目魚」は、正真正銘の眼が四つあるのである。頭の左右に、おのおの二つずつの眼が、上下に並んでついている。四つともちゃんとした眼なのであって、しかも面白いことには、上の二つは、遠視で、下の二つは近視になっている。
 この魚は、たいてい水面に浮んで泳いでいるので、その時は、上の二つの眼は水面上に出ていて、下の二つの眼は水中にはいっている。すなわち空気中の眼は遠視で、水面上に浮んでいる餌などを見つける役をする。水面下の眼は、水中を見るのに適当した近視になっていて、水の中の害敵などを警戒しているのである。まことに便利な話であって、ドリトル先生の首二つの獣と、ちょっと似た感じがする。あまり話がおもしろすぎるので、担がれるのではないかと思われる方があるかもしれないが、本当にそういう魚がいるのであって、学名は、ANABLEPIDAE 科の Anableps anableps というのであるから、信用されていい話である。
 シカゴには、世界一を誇るりっぱな水族館があって、この魚は、そのカタログの中に、ちゃんと写真も出ている。アメリカでは、なにかというと、世界一という形容詞をつけたがるが、この水族館は、まあその誇称に値いするといっていいであろう。非常にりっぱな水族館であって、魚の種類も多く、海水魚と淡水魚と両方にわたり、世界中から、いろいろな魚を集めている。太平洋、大西洋…

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