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宇宙旅行の科学
うちゅうりょこうのかがく
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎集 第七巻」 岩波書店
2001(平成13)年4月5日
初出「文藝春秋 第三十一巻十一号」文藝春秋新社、1953(昭和28)年8月1日
入力者kompass
校正者岡村和彦
公開 / 更新2019-01-27 / 2018-12-24
長さの目安約 35 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

宇宙旅行の夢

 宇宙旅行の夢くらい、素晴らしくて、又罪のない夢はない。そういう夢に、いよいよ実現の可能性が出てきたのならば、これは戦争の悪夢にうなされているわれわれには、何よりの清涼剤になるであろう。アメリカの海軍が、時速五千八百マイルのロケットを註文したことは、この可能性を実証するものだが、まず人工衛星をつくることが、宇宙旅行の第一歩である。これさえ出来れば、それを足場にして、そこから宇宙船をとび出させれば、比較的容易に、天体までの旅行が出来るのである。地球からすぐ天体へとび出すのは、ベース・キャンプをつくらないでエヴェレストへ登ろうとするような話である。エヴェレストの頂上をきわめようと思ったら、まずベース・キャンプをつくらねばならない。そして人工衛星が、この場合のベース・キャンプなのである。
 それで人工衛星をつくることの可能性如何が、宇宙旅行が科学の問題になるか、空想小説の種になるかという岐れ目である。今度アメリカ海軍が発註したロケットの規格は、この人工衛星をつくる一つの可能性を示した点において、かなり重要な意味がある。
 第二次世界大戦の末期頃に、ヒットラーが、この人工衛星をつくる研究を指令したことがある。この話は、当時の日本の新聞にも出ていたので、記憶に残っている方もかなりあるであろう。もっともあまりにも突飛な話なので、たいていの人は、法螺話か新聞記事のデマとして、気にも止めず、読み棄てられたにちがいない。しかし今から考えてみれば、ヒットラーが、大真面目にこの問題をとり上げたとしても、ちっとも可笑しくないのである。というのは、現在アメリカで、一部の人たちの間ではあるが、本気で人工衛星のことを考えているのは、けっきょく第二次大戦中に独逸で発明されたV2号ロケットの改良の問題に帰するわけである。
 それならば、ヒットラーが、V2号の完成に引きつづいて、人工衛星の問題に着眼したとしても、何も不思議ではない。むしろきわめて自然な経過であり、且つ頭も良かったといっていいであろう。というのは、もし人工衛星がヒットラーの夢想どおりに、本当に出来たと仮定したら、独逸は戦争に敗けなくてすんだからである。逆にアメリカも、イギリスも、ヒットラーの膝の下に屈しなければならなかったであろう。
 もっとも、これは非常な大事業であって、そう急にはどうにもならない。現在のアメリカの科学力及び工業力を総動員し、且つ今日のアメリカがもっている金の力を、ほとんど無制限に注ぎ込んだとしても、少くも十年はかかるであろうと、一部の専門家たちは言っている。それで当時の独逸の力では、とても戦争に間に合うはずはなかった。

ヒットラーの夢アメリカに引きつがる

 今度の戦争がすんで間もない頃、即ち一九四五年のうちに、独逸のロケット関係の研究者たちは、アメリカへ渡った。そしてV2号の改良を、アメリ…

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