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フランダースの犬
ふらんだーすのいぬ
作品ID57302
原題A Dog of Flanders
著者ド・ラ・ラメー マリー・ルイーズ
翻訳者荒木 光二郎
文字遣い新字新仮名
入力者荒木光二郎
校正者
公開 / 更新2015-09-20 / 2015-09-17
長さの目安約 82 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ネロとパトラッシュは、この世で二人きりでした。
 彼らは、実の兄弟よりも仲のよい大の親友でした。ネロは、アルデンネ生まれの少年でした。パトラッシュは、大きなフランダース犬でした。どちらも年は一緒でした。けれども、ネロはまだ若く、パトラッシュはもう年寄りでした。彼らは生きている間、ほとんど一緒に暮らしていました。どちらも両親を亡くし、非常に貧しく、同じ人の手で養われていました。二人には、初めて出会った時から、共感というきずなが存在しました。そして、その共感のきずなは日を追う毎に強まり、彼らが成長するにつれてしっかりと成長し、切り離すことができなくなりました。そして、ついには、お互い同士、深く愛し合うようになったのでした。

 彼らの家は小さな村のはずれにある、小さな小屋でした。村は、フランダース地方にあり、アントワープから五キロばかり離れていました。村は、広々とした牧草地と、とうもろこし畑に挟まれた平野にありました。平野を横切る運河のほとりには、ポプラとハンノキの長い並木がそよ風に吹かれてたなびいていました。村には、およそ二十軒ばかりの家と農家がありました。その家々は、雨戸は明るい緑か空色で、屋根はばら色か白と黒のまだらで、壁は日差しに照らされると雪とみまがうほどに真っ白でした。村の中心には、風車小屋がありました。その小屋は、少しこけの生えた斜面に建っていました。風車小屋は、あたり一帯の平野からは、よい目印になっていました。かつて風車小屋は、帆も何もかも真っ赤に塗られていました。しかしそれは、まだ風車小屋ができた頃の話で、もう半世紀以上も前のことでした。当時は、この小屋はナポレオン将軍の兵士のために小麦を挽いていたのでした。今や、風車小屋は赤茶色でした。長年の風や日射しで色あせてしまったのです。
 風車は、時々奇妙な具合に動きました。それは、まるで年取って痛風や関節炎になったかのようでした。けれども、近隣一帯の人たちはみな、この風車小屋で小麦を挽いていました。きっと、よそに小麦を持っていくことは、村の小さな灰色の教会で行われるミサに参列せず、よその教会のミサに参列するのと同じくらい不信心なことであると、村人たちは考えていたに違いありません。その教会は、丸いとがった尖塔があって、風車小屋の反対側に建っていました。教会の一つしかない鐘が、この地方一帯の鐘に共通した、奇妙に沈んだ、うつろな悲しい響きを響かせながら、朝昼晩に鳴らされました。
 ネロとパトラッシュは、ほとんどの生涯を、時を告げるもの悲しい鐘の音が聞こえる場所で一緒に暮らしていました。二人が住んだ村のはずれの小屋の北側にはアントワープの大聖堂の尖塔がそびえ、小屋との間には、どこまでも続く緑の草原ととうもろこし畑とが、まるで満ち引きすることのない海のように広がっていました。そこは、とても年をとったまずしい…

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