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アメリカの沙漠
アメリカのさばく
作品ID57314
著者中谷 宇吉郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎集 第五巻」 岩波書店
2001(平成13)年2月5日
入力者kompass
校正者砂場清隆
公開 / 更新2021-01-30 / 2020-12-27
長さの目安約 28 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 今世紀の初頭から着手されたアメリカの綜合開発は、今日かがやかしい成果をあげている。その仕事の九割以上は、沙漠の征服にある。即ち水資源に乏しいアメリカでは、大きいダムを造って、雪解けの洪水を一度全部その貯水湖にため、その水を一年中を通じて大切に使うという新しい開発方式を採り、ついに、沙漠の征服に成功したのである。この開発の要点は、それで高いダムの建設という問題に落ちつくわけである。今日、日本の到るところでダムの建設がやかましく論ぜられているのは、アメリカにおける綜合開発の成功に刺戟されたからである。それでわれわれは、日本の国土開発を論ずる前に、まずアメリカの風土と、それに対する人間のたたかいの跡とを覗いてみる必要がある。

一 水に乏しい国アメリカ

 ダムの建設のような、自然を直接相手とした事業の遂行には、その国の風土に基いた、地味な、そして基礎的な研究が必要である。その一例をコロラド流域の開発にみることにしよう。
 コロラド河に造られたボルダー・ダムは、この一つのダムだけで、年間を通じて百四万キロワットという驚くべき発電能力を有している。またこのダムの建設によって、下流のコロラド河は一年を通じて、全然水位の変らない河となった。そういう水位の一定した河からは、水をとることが非常に簡単である。それで灌漑用水も、水道水も、工業用水も、自由にとれるようになった。
 水道はロスアンゼルスの街へひいたものが非常に有名である。ロスアンゼルスの街は、カリホルニア州の沙漠地帯のはしにあるため、昔から水には不自由をした街である。人間の生活に、なんといっても一番必要なものは水である。いかなる近代文明設備の完備した大都会でも、いったん水が切れれば、それは廃墟となるより仕方がない。ロスアンゼルスは、はじめ附近のロスアンゼルス河から水道をひいていたのであるが、この河の水量は全然問題にならない。一九〇六年、まだロスアンゼルスが人口十六万の小都会であった頃に、既にこの水道では水が足りなくなり、ロスアンゼルスの発展はそれ以上望みがない状態であった。
 日本のように、あまりにも水に恵まれた国では、水の恩恵を人々はあまり感じていない。しかし、人間の生活に水くらい大切なものはない。水がなければ文明どころの騒ぎではなく、第一生きていることが出来ない。ところがこの水は、いくら文明が進歩しても、作るわけにはゆかない。水素と酸素とのボムベを運んで来て水を作ったり、或いは、海水を蒸溜して水を作るようなことは、人間生活という立場からいえば、全然不可能といってよい。それで、いかなる文明国においても、水だけは自然がもたらしてくれる恩恵にすがるよりほかに道がない。
 ロスアンゼルスの場合には、一番近い水の在り場所といえば、北方にあるネバダ山脈の雪である。それでネバダ山脈中の小さい湖から、水をひくことになったので…

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