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浅草詣
あさくさもうで
著者伊藤 左千夫
文字遣い新字新仮名
底本 「土地の記憶 浅草」 岩波現代文庫、岩波書店
2000(平成12)年1月14日
初出「心の花 第六卷第二號」大日本歌學會、1903(明治36)年2月5日
入力者高瀬竜一
校正者noriko saito
公開 / 更新2019-04-03 / 2019-03-29
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 一月十一日、この日曜日に天気であればきっと浅草へ連れて行くべく、四ッたりの児供等と約束がしてあるので、朝六時の時計が鳴ったと思うと、半窓の障子に薄ら白く縦に筋が見えてきた、窓の下で母人の南手に寝て居った、次の児がひょっと頭をあげ、おとッさん夜があけたよ、そとがあかるくなってきました、今日は浅草へゆくのネイ、そうだ今日はつれてゆくよ、今まで半ねぶりで母の乳房をくちゃくちゃしゃぶって居た末のやつが、ちょっと乳房を放して、おとッちゃん、あたいもいくんだ、あたいも連れていってよ、そうそうおまえもつれてゆくみんなつれてゆく、アタイおもちゃ買って、雪がふったら観音様にとまるよ、幼きもののこの一言は内中の眼をさました。
 台所の婆やまでが笑いだし、隣の六畳に祖母と寝て居った、長女と仲なとが一度におっかさん天気はえイの、おッかさんてば、あイ天気はえイよ。
 あアうれしいうれしいなア明かるくなった、もう起きよう、おばアさん起きよよう、こんなに明るくなったじゃないか。
 祖母は寒いからもう少し寝ていよという、姉も次なも仲なも乳房にとッついているのも、起きるだという、起ようという起してという、大騒ぎになッてきた、婆や、早く着物をあぶってという、まだ火が起りませんから、と少しまってという、早く早くと四人の児供らはかわりがわり呼立てる。
 もうこうなっては寝ていようとて寝ていらるるものでない、母なるものが起きる、予も起きる、着物もあぶれたというので、上なが起る次なが起る、仲なのも起る、足袋がないとさわぐ、前掛がないと泣きだす、ウンコーというオシッコーという、さわがしいのせわしいの、それは名状すべからずと云う有様。
 手水つかうというが一騒、御膳たべるというが一混難、ようやく八時過ぐる頃に全く朝の事が済んだのである。同勢六人が繰出そうというには支度が容易の事ではない、しかも女の児四人というのであるからなおさら大へんだ、午前中に支度をととのえ、早昼で出かけようというのである。
 まず第一に長女の髪をゆう、何がよかろうという事、髪はできぬという、祖母に相談する、何とかいう事に極って出来あがった、それから次なはお下げにゆう、仲なは何、末なは何にて各注文がある、これもまた一騒ぎである、予は奥に新聞を視ている、仲なと末なが、かわるがわる、ひききりなしにやってくる。
 おとっさん歩いてゆくの、車で、長崎橋まであるいてそれから車にのるの、浅草には何があるの、観音様の御堂は赤いの、水族館、肴が沢山いる、花やしきちゅうは、象はこわくないの、熊もこわくないの、早くゆきたいなア、おとっさん、おっかさんはまだ髪をゆってくれないよ、いま髪いさんがきておっかさんの髪をゆっているよ、おとっちゃんおとっちゃんおかさんまだアタイに髪ゆってくれないよ、アタイ浅草へいっておもちゃ買って、お汁粉たべる、アタイおっかさんと車…

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