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親鳥子鳥
おやどりことり |
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作品ID | 57336 |
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著者 | 佐々木 邦 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「佐々木邦全集1 いたずら小僧日記 珍太郎日記 親鳥子鳥」 講談社 1974(昭和49)年10月10日 |
初出 | 「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年10月~1926(大正15)年10月 |
入力者 | 橋本泰平 |
校正者 | 芝裕久 |
公開 / 更新 | 2020-08-11 / 2020-07-27 |
長さの目安 | 約 183 ページ(500字/頁で計算) |
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一家団欒
お父さんが社から帰って来て、一同晩餐の食卓を囲む時、その日起った特別の事件が話題に上る。
「今日は里の母が見えて、私、上等の浴衣地を戴きましたよ」
なぞというのはお母さんの書き入れ事件である。それに対してお父さんは、
「ふうむ、それは宜かったね。彼方でも皆丈夫だろうね?」
と応じる。続いて里の話になって、
「私、その中に一日行かせて戴きますわ」
「何処へ?」
「里へですよ」
「この間行ったばかりじゃないか?」
「いいえ、あれはお正月でございますよ」
「然うだったかね。それじゃ行くさ」
というようなことに帰着する。
自分に関係のない問題は何うでも構わないが、
「あなた、今日は源太郎が学校のお友達と活動へ行く約束をして来て、ねだって困りましたの」
などと突如に吹聴されて、僕は大に面喰うことがある。
「そうして行ったのかい?」
とお父さんは怖い顔をする。
「お友達が門のところに待っていますし、土曜日ですから、つい……」
とお母さんが言い淀む。
「もういけないよ。活動は低級でいけないって断ってあるじゃないか?」
「はい」
と私も恐れ入る。しかし直ぐその後から、
「その代り今度芝居へ連れて行ってやろう」
とは有難い。活動の分らないのは少し時勢に後れている所為だろうと遺憾に思うが、芝居に力瘤を入れるところはナカナカ話せる。僕も何方かといえば高級の方が面白いのだから、これからはお母さんに御迷惑をかけまいと決心する。お父さんのいないのを承知でお母さんにねだるのは宜しくない。
お客さまも来ず、僕達もおとなしく、地震も揺らず、病人もなく、全く平穏無事の日もある。そんな時にはお母さんは、
「今日は押売が玄関に坐り込んで困りましたわ」
ぐらいのことで間に合わせる。こんな問題でもお父さんは、
「押売撃退の妙法を伝授してやろうか?」
なぞと受けて、冗談の材料にする。
「教えて戴きますわ。毎日一人や二人は屹度来るんですよ。御免、と言うから、お客さまかと思って襷を外して出て見ますと、筆を一本買って戴きたいなぞと申します」
とお母さんは毎度暇を潰されるので、女中のお蔦を相手に、然るべき駆除法を絶えず研究している。
「ああいうものに対等で行くからいけないのさ。俺なら斯うだ」
とお父さんは舌を出して目を白くした。
「何ですの? それは」
「狂人の真似さ。この通り。ベロベロベロ」
「まあ、お父さんが!」
と子供達が笑い出す。
「何と言っても斯うやって首を振っていれば直ぐに帰って行く。そうして二度とは来ない。先方も実は忙しいんだからね」
「オホホホホ。今度試めして見ましょうか? お蔦、お前一つやって御覧よ」
とお母さんが言った。苟くも奥さんが狂人の真似は出来ない。
「あら、奥さま、私、迚も出来ませんわ、そんな器量の悪い顔は」
とお蔦は昨今は相応垢抜けた…