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ピックマンのモデル
ピックマンのモデル |
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作品ID | 57341 |
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原題 | PICKMAN'S MODEL |
著者 | ラヴクラフト ハワード・フィリップス Ⓦ |
翻訳者 | The Creative CAT Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
入力者 | The Creative CAT |
校正者 | |
公開 / 更新 | 2015-08-20 / 2019-11-22 |
長さの目安 | 約 37 ページ(500字/頁で計算) |
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私のことを気違いだと思わなくてもいいだろう、エリオット――もっとおかしな偏見を持ってる人たちだって五万といるんだ。どうして自動車に乗ろうとしないオリヴァーの祖父さんを笑わないんだい? 私が忌々しい地下鉄を嫌っているとしたって、それは私の勝手だし、タクシーの方が早くここまで着くし。地下鉄で来たらパーク街から丘を歩いて登らなきゃならなかったんだぜ。
去年会った時より神経質になってるのは判ってる、でも君に診察してもらう必要はないさ。確かに沢山理由があってねえ、正気でいられるのが不思議なくらいだよ。何故拷問みたいにする? 君はそんなに根掘り葉掘り聞く人間じゃなかったろう。
ああ、君が聞かなきゃならないというなら、そうすればいいさ。君はそうするに決まってるよな、私が美術同好会から足を洗ってピックマンを避けるようになったと聞いたら、まるで悲嘆にくれる親みたいにひたすら手紙をくれたもの。今、奴はいなくなって、私も時々同好会に行ってみるけれど、私の神経は前とは違ってしまっているんだ。
いや、ピックマンがどうなったかは知らないし、考えてみたくもない。君は私がピックマンと縁を切った時、内情を知っていると勘ぐっていたようだけど――だから私は奴がどこに行っちまったのか考えたくないんだ。警察には好きなように探させておけばいい――大したことはできないさ。奴がピーターズって名前で借りてたノース・エンドの場所も判っていないところからみるとね。
自分でももう一度見つけられるかどうか――明るい真っ昼間でもそんなことをしてみようとは思わないし!
ああ、私は知ってる、残念ながら知っていると思うよ。奴がそれを維持していた理由を。で、全部説明し終わる前に、君にも私が警察を呼ばない理由を判ってもらえると思うな。連中は道案内しろというだろうけど、私はそこに戻れないんだよ、仮に道順を知っていたとしても。あるものがそこに存在していた――そして今私は地下鉄に乗れず(こっちの方も同じように笑うだろうが)二度と地下室に下りられないでいるんだ。
私がピックマンと切れたのが、リード博士やジョー・マイノットやローズワースみたいに、小うるさい老婆じみた下らない理由からじゃないのは判ってくれていると思う。病的な恐怖美術なんかにショックを受ける私じゃないし、ピックマン程の天才と知り合いになれたらそれは名誉なことだと思うぜ、そいつがどんな方向で仕事をしていてもだ。ボストンにはこれまで、リチャード・アプトン・ピックマンを越える画家がいたことはない。これは私が言い出したことで、今でもそう言い続けているし、一インチたりとも譲るつもりはないぞ。あれは奴が例の「食屍鬼の採餌」を持ち出してきたときのことだったな。マイノットはその時奴と絶縁したんだ、覚えてるだろう。
ねえ、ピックマンの作品のような絵を描くにはとんでもなく深い技…