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ゴリオ爺さん
ゴリオじいさん
作品ID57353
原題Le Père Goriot
著者バルザック オノレ・ド
翻訳者中島 英之
文字遣い新字新仮名
入力者中島英之
校正者
公開 / 更新2015-10-07 / 2015-10-12
長さの目安約 578 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


偉大にして高名なジョフロワ=サン=ティレールに献ぐ
その業績と天才への私の歎賞の証として
ド・バルザック


[#改丁]

一 ある下宿館

 ヴォーケ夫人、ド・コンフラン家の生まれの老婦人で、四十年来パリのネーヴ・サント・ジュヌヴィエーヴ通[1]で賄い付きの下宿をしっかりと営んできた。そこはカルチェ・ラタンとフォーブール・サンマルソーの中間にあった。この下宿はメゾン・ヴォーケの名で知られ、老若男女を問わず等しく受け入れてきた。誹謗中傷がこの立派な施設の品性を傷つける様なことは一度もなかった。その一方で、ここでは三十年来、若い女性の姿はついぞ見かけられなかったし、若者で長く居ついた者もなかったので、ここの住人達はおのずから、この下宿の雰囲気を寂しげなものにしてしまっていた。とはいえ、この物語が始まった一八一九年のことだが、貧しい若い女性も一人、下宿人の中に混じっていた。悲劇が全盛の現代文学では、物語の中で過剰な、あるいは、乱暴な言葉が濫用され過ぎるとの不評をこうむる作品が多いが、私もここでは不評覚悟で、そうした手法を用いる必要がある。この物語は写実的言葉による展開の盛り上がりによるのではなく、衝撃の結末によって、恐らくパリ城壁の内外で人々の涙を誘うことができるだろう。私が敢えて使うこの手法は、しかし、パリ以外でも理解されるだろうか? 疑問は残るが。さてこの物語の舞台となる場所をあれこれと観察し固有色を用いて説明しても、せいぜいモンマルトルの丘からモンルージュの丘に至る辺りの住人くらいにしか共感を得られないだろう。まるで谷間のようなこの地域ときたら、壁土はいつ崩れてもおかしくないし、溝は泥で真っ黒な色をしている。この谷間は本当に苦しみに満ち、喜びはしばしば間違いだったりする。そして恐ろしく差し迫った用事があるのだと言い立てても、感覚が麻痺したようなこの地では新たな興奮を呼び起こすのは容易ではない。しかしながらこの地域では、ここかしこに悲しみが満ち溢れているため、悪徳と美徳の密集地帯が巨大で崇高な存在になっている。想像を絶する惨状に、人々の利己主義や打算も一時停止して、しばらくは同情を寄せることもあろう。しかし、人々が最初に抱いた印象すら、美味しい果実のようにたちまちむさぼり食われて、跡形もなく消えてしまうのがおちなのだ。インドのクリシュナ神像を載せた山車と同じように、パリの華やかな文明を積んだ戦車は、人を踏み潰すことをためらい、しばし停車することはあっても、結局は弱者を粉砕しつつ栄光へ向かって前進を続けるのだ。読者諸兄よ、貴方は戦車に乗る人なのだろうか? そう貴方、この本を真っ白い手に取って、深々とした肱掛椅子に沈みこんで、貴方は言うのです。こいつは面白そうだな、ってね。ゴリオ爺さんの不幸せな秘話を読んだ後、旺盛な食欲で夕食を済ませ…

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