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三渓園
さんけいえん
作品ID57382
著者山本 和久三
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本随筆紀行第八巻 横浜 かもめが翔んだ」 作品社
1986(昭和61)年4月25日
入力者浦山敦子
校正者栗田美恵子
公開 / 更新2025-07-19 / 2025-07-17
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 大町桂月は『天下の山水は皆我が庭園也、天下の旅館は皆我が別荘也』と言つた。むかしサムライ商会の野村さんは、外客に僕の庭を見せやうと三渓園へ連れて行つた。横浜市民が三渓園を一種の誇りを以て見てゐる生きた証拠だ。
 三渓園と横浜市民の親しみがそこにあるのだ。公園以上の公園として横浜のプライドの随一となつた所以だ。よそから来た人を三渓園へ連れて来て『どうだいいだらう……』と宛がら自分の庭のやうに自慢する訳だ。
 更に三渓園のよさは、これが私人の所有であると云ふ、園主に対する或種の感謝の念に出立してゐる。其盛るところの内容から言つても横浜市の持つてゐるどの公園だつて敵することは出来ぬ。国宝に指定された建築物も五指に余つてゐる。園を入つて直ぐと、闊けた蓮池の向ふに三重塔を眺める景色は、特に私の好きな一つだ。この三重塔、聖武天皇の天平七年と云へば今から千二百年も前の建築だ。偉大なる古代美術の粋、国宝に指定されたのは当然である。
 蓮の頃、私はわざ/\蓮を見に来る。涅槃の悟り其ものゝやうな蓮の花が、静かに首をもたげて夢みる如くなよ/\と浮く様の何ぞさやけき。酷熱の印度に生れた仏教人が蓮のうてなを理想境に選んだのも無理はない。
 園主三渓氏の趣味人格をその儘に生れて育つた此名園に、市民の感謝と誇りを代表して『礼讃』の二字を捧ぐ。



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