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山下海岸……水の公園
やましたかいがん……みずのこうえん
作品ID57384
著者山本 和久三
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本随筆紀行第八巻 横浜 かもめが翔んだ」 作品社
1986(昭和61)年4月25日
入力者浦山敦子
校正者栗田美恵子
公開 / 更新2025-03-15 / 2025-03-08
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 夜と共に露けく甦つたアスフアルトへハイヒールを叩きつけて支那街から繰り込んで来るモダン支那美人の一群亦一群、山下公園の定連だ。北京語だか広東語だか判らぬが、かう云ふ美人連の囀る言葉は、パリージエンヌのフランス語と同じやうな美しい韻律をもつてゐる。
 薄紫に澄み切つた海水の燐を掻き乱して、五六人の男が、『トテモあつたかいや……』と言ひながら泳いでゐる。水は温たかいかも知れないが上つて来た姿は如何にも涼しさうだ。
 ベンチに囁く二人連れ、別に珍らしいとは思はぬが、どの影もどの影も、ひそ/\と語りセンチに寄り添つてゐるのは内気過ぎる。なぜもつと明朗に大胆に、此良夜を此環境に、君達の恋を謳歌しないのだ。
 入つて見てもいゝ公園である。乗物の中から見て通つてもいゝ公園である。震災の洗礼に依る、大破壊のあとの、大なる建設中の傑作として新横浜人の驕りの随一である。噴水のあたり旧フランス波止場の入江のあたりもいゝ。ニユーグランドの赤い灯青い灯紫の灯が、漫歩の瞳に童話めいた聯想を投げかけるのも悪くない。
 むかしフオース・ジユライの花火は横浜の名物だつた。あの花火を中心に此界隈が、港都にふさはしい賑ひを呈したことは其当時の横浜人の記憶に新たである。あの花火よりも盛んな花火大会を山下公園の行事として催しモダン浜ツ子への夏のプレゼントにしたいものだ。



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