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ドラムガニョールの白い猫
ドラムガニョールのしろいねこ |
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作品ID | 57396 |
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原題 | THE WHITE CAT OF DRUMGUNNIOL |
著者 | レ・ファニュ ジョゼフ・シェリダン Ⓦ |
翻訳者 | The Creative CAT Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
入力者 | The Creative CAT |
校正者 | |
公開 / 更新 | 2016-02-22 / 2019-11-22 |
長さの目安 | 約 28 ページ(500字/頁で計算) |
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白猫に関しては、誰もが皆子守語りに覚えてしまう有名な話がある。これから私が語ろうとしているのは、優しい王女様が魔法の力で暫しの間白猫に化けるというそんな話とは大きく異なった物語だ。もっと邪悪な白猫の話である。
リムリックからダブリンに向かう旅人は、左手のキラローの丘陵を通り過ぎ、峻立するキーパー山が見える所までくると、低い丘の連なりが右から迫り、次第に閉じ込められていくような気分になる。平原は起伏しながら次第に道よりも低い所まで落ち込んでいき、その荒涼たる憂鬱な性格を和らげるものといえば、疎らに見える低木の垣根くらいだった。
そんな人里離れた平地にも、薄い泥炭の煙を上げる人家が僅かにあった。その一つが粗い草葺き屋根で土造りの「大百姓」(*1)の家だった。マンスターでは裕福な小作層をこう呼ぶのだ。それはうねうねと流れる小川の岸に沿った木立の中にあり、おおよそのところ、山々とダブリン街道の中間に位置していた。その借家にはドノヴァンという一家が代々住んでいた。
私はこの遠隔の地で、入手したいくつかのアイルランドの記録を調べ、アイルランド語を教えてくれる先生を探そうと思った。そのためには夢見がちで無邪気、かつ教育のあるドノヴァン氏がうってつけだったのだ。
彼にはトリニティ・カレッジの奨学生として学んだ経験があることを私は知った。現在彼は教鞭をとることで生計を立てており、私の研究のもつ独自の方向性が自国びいきの彼を喜ばせるだろうと思った。彼は胸襟を開いて、長年胸に秘めてきた思想、故郷と幼き日の想い出、そういったものを大いに語ってくれたからだ。この話を聞かせてくれたのは彼であり、私はできるだけ忠実にそれを再録したいと思う。
私は自分自身でその古い農家を見たことがある。果樹園には苔むした林檎の大木があった。見回すと、奇妙な風景が目に入った。蔦に覆われた屋根のない塔。二百年前には暴動と反逆(*2)からの避難所として役立っただろうし、今もなお昔ながらの場所に鷹の様な目つきで建っている。灌木が繁る「砦」。百五十段も歩けば過ぎ去りし民族の労苦の跡が残る。背後に聳えるのは懐かしいキーパー山の黒い塔のような輪郭、近くにはハリエニシダとヒースが生える丘々が行く手を阻み、灰色の岩と痩せっぽっちのオークないしカバが一本の線を描いて。風景を覆う孤独感が、この世ならぬ野蛮な話には悪くない舞台をなしていた。遠くまで一面雪に覆われた灰色に凍てつく朝、あるいは秋夕の憂鬱なる美観の中、あるいは冷たく冴え渡る月影の下、誠実なるダン・ドノヴァンのような夢見がちな精神がいかほど迷信を植付けられ、幻想を見たがる傾向を強めさせられただろうかと思ったものだった。しかしながら、これほど正直な人物、全面的な信頼に足る人物にはどこでも会ったことがないのも確かである。
子供の頃、と彼は語った、ドラムガニョー…