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羊飼いハイタ
ひつじかいハイタ
作品ID57401
原題HAÏTA THE SHEPHERD
著者ビアス アンブローズ
翻訳者The Creative CAT
文字遣い新字新仮名
入力者The Creative CAT
校正者
公開 / 更新2015-12-25 / 2019-11-22
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 時が経っても、ハイタの胸の中にある青春の幻想は経験を積んだ者のそれに席を譲りませんでした。彼の考えは純粋で陽気。彼の生活は単純で、彼の魂には野心というものがなかったからです。朝日と共に目覚め、ハスターの礼拝堂に行って祈りを捧げました。ハスターは羊飼いの神様で、祈りを聞こし召してお喜びになっていたのです。この敬虔なる儀式が済むと、ハイタは囲いの門を開け、乳と麦を固めたパンの朝食を食べながらご機嫌で羊たちを野に追い、時々立ち止まって冷たい朝露に濡れたベリーを摘んだり、丘から流れ出す水を飲んだりしました。その水は小川となって谷を下り、どことも知れない土地へと流れて行くのです。
 長い夏の一日、すくすく育つようにと神様が用意してくださった良い草を羊たちが食んだり、前脚を胸の下に畳んで反芻したりする間、ハイタは木陰で横になりまた岩に腰を下ろし、葦笛を吹きました。大層甘い音でしたので、折節、森の小妖精が木の間から頭を突き出し耳を澄ます姿が目の隅に入ったものです。ですが、その姿をしっかり見ようとしたら消えてしまいました。彼はこんなことから――自分の羊たちの一頭になってしまいたくないなら頭を使い続けなければならないからですが――「幸せは探さずにいれば来るだろう」という厳粛なる推論を立てたのです――でも探してしまうと決して見つからないのだと。それというのも、ハイタが一番好きなのは決して素性を明かさぬハスターで、その次に大事にしていたのが仲良しの隣人たち、人見知りな森や小川の不死の精のことだったからです。日暮れ時、彼は羊たちを囲いの中に追い戻し、門をしっかり閉め、自分の洞穴に引っ込んで体を休め夢を見るのでした。
 彼の毎日はこんな風に過ぎて行きましたが、ある時臍を曲げた神様の一柱が罰として嵐を起こしました。そんな時ハイタは洞穴の中ですくみ、両手で顔を覆って祈りました。俺の罪は俺に留め、世の中を巻き込んで滅ぼしたりしないでくださいと。またある時大雨が降って小川が溢れ、彼は怖がる羊の群れを高台に避難させなければなりませんでしたが、そこでも彼は、自分が住む谷の出口をなす二つの青い丘の向こうの平地にあると聞く都市の住民のために祈ったのです。
「おお、ハスター様、お願いです」と彼は祈りました「おかげさまで俺には住処と羊たちの近くに山があって、酷い洪水から逃げられます。ですが、神様あなたは世界の残りの部分をお救いくださらなければなりません。どんなやり方かは俺にはわからないけれど。さもないとこれ以上あなたをお祀り申し上げる訳にはいかなくなります。」
 そこで、ハイタが約束を守る青年だとわかっているハスターは都市を救い、水を海に戻しました。
 彼は物心ついてこのかたこのように生きてきたのです。彼には他のあり方というものがよくわかりませんでした。辿り着くには小一時間かかる谷の一番奥に聖なる隠者…

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