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教育と迷信
きょういくとめいしん
作品ID57418
著者丘 浅次郎
文字遣い新字新仮名
底本 「進化と人生(上)」 講談社学術文庫、講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「日比谷図書館にて講演」1911(明治44)年5月
入力者矢野重藤
校正者y-star
公開 / 更新2017-07-26 / 2017-07-17
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一 教育の目的

 教育学の書物には教育の目的について、種々高尚なことが書いてあるようであるが、実際においては教育の目的は列国競争場裡に立って、立派に独立して行けるだけの資格を備えた次代の国民を養成するにあることはたしかである。もしこの目的にかなわぬような教育を施す国があったならば、その国の前途はすこぶるあぶない。されば教育に従事する者はこの実際的の目的を常に意識して一刻もこれを忘れてはならぬ。
 さて列国競争場裡に立って立派に独立して行けるように次代の国民を養成するには、まず他の国々と自分の国とを比較してその優劣を考え、わがほうに劣った点があるならば力をつくして、一刻も早く他の国に追いつき、なおこれを追い越すようにつとめねばならぬ。またわがほうにまさった点を見いだしたならば、これはなお奨励していつまでもまさった位置を保つように心掛けねばならぬ。それにはまず他の国々に比してわが国が現在いかなる状態にあるかを熟知することが必要である。

二 わが国の現状

 わが国は一度は清国と戦って勝ち、次には世界の強国なるロシアと戦って勝ち、今は一等国の中にかぞえられるようになった。しかしながら軍事以外の方面を英、米、独、仏等のごとき他の一等国と比較して見ると、いかにひいきめをもって見てもかれらに匹敵するとは言われぬ。いな二等国、三等国と言われる国々にくらべてさえはるかにおよばぬ点もはなはだ多い。物産について見ても、わが国の主要な輸出品は生糸、茶のごときほとんど天産物そのままのもので、他の一等国のごとき精巧な機械、薬品、工芸品ではない。外国人に見せて自慢のできるものは、富士の山か瀬戸内海の景色か、ないしは芸者の手踊りくらいで、他の一等国のごとくに、完備した博物館もなければ、智力で造り上げた巧妙な製作品もない。内国博覧会を開いてももっとも評判にのぼるものは八千円の造花とか、一万円の刺繍とか、単に根気を要する指先仕事ばかりで、文明を代表すべき機械館にはわずかに玩具にひとしい製麺機械が人を呼んでいるに過ぎぬ。かように数え上げれば際限がないほどに、今日のわが国には他の一等国に比して、とうてい足もとにもおよばぬほどに劣っている点が多い。しかしてその根源は何にあるかといえば、いずれも理科の知識の普及せぬこと、その応用の発達せぬことである。法律がいかに完備しても、文芸がいかに隆盛におもむいても、理科の知識が今日のごときありさまにとどまり、理科の応用が今日のままで進まなかったならば、今後のわが国はいかにして他の一等国と競争してゆくことができるであろうか。いささかでも国の将来を考える者は決して平然と安心しておられる次第ではない。

三 理科の奨励は目下の急務

 昔は交通の開けなかったために、わが国のごときアジアの片隅にあって他の一等国と遠く離れているところでは、たとい多少他に劣った点があ…

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