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ゆづり葉
ゆずりは |
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作品ID | 57431 |
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著者 | 河井 酔茗 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「ふるさと文学館 第三三巻 【大阪Ⅱ】」 ぎょうせい 1995(平成7)年8月15日 |
初出 | 「紫羅欄花」東北書院、1932(昭和7)年 |
入力者 | 大久保ゆう |
校正者 | Juki |
公開 / 更新 | 2016-01-01 / 2016-01-01 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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子供たちよ。
これは譲り葉の木です。
この譲り葉は
新しい葉が出来ると
入れ代つてふるい葉が落ちてしまふのです。
こんなに厚い葉
こんなに大きい葉でも
新しい葉が出来ると無造作に落ちる
新しい葉にいのちを譲つて――。
子供たちよ。
お前たちは何を欲しがらないでも
凡てのものがお前たちに譲られるのです。
太陽の廻るかぎり
譲られるものは絶えません。
輝ける大都会も
そつくりお前たちが譲り受けるのです。
読みきれないほどの書物も
みんなお前たちの手に受取るのです。
幸福なる子供たちよ
お前たちの手はまだ小さいけれど――。
世のお父さん、お母さんたちは
何一つ持つてゆかない。
みんなお前たちに譲つてゆくために
いのちあるもの、よいもの、美しいものを
一生懸命に造つてゐます。
今、お前たちは気が附かないけれど
ひとりでにいのちは延びる。
鳥のやうにうたひ、花のやうに笑つてゐる間に気が附いてきます。
そしたら子供たちよ
もう一度譲り葉の木の下に立つて
譲り葉を見る時が来るでせう。