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大阪の朝
おおさかのあさ
作品ID57433
著者安西 冬衛
文字遣い新字新仮名
底本 「ふるさと文学館 第三三巻 【大阪Ⅱ】」 ぎょうせい
1995(平成7)年8月15日
初出「サンデー毎日」1952(昭和27)年8月
入力者大久保ゆう
校正者Juki
公開 / 更新2016-06-02 / 2016-03-04
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 川に張り出した道頓堀の盛り場は、仇女の寝くたれ姿のように、たくましい家裏をまざまざと水鏡に照し出している。
 太左衛門橋の袂。
 舟料理の葭すだれは、まき上げられたままゆうべの歓楽の名残をとどめている。
 宗右衛門町の脂粉の色を溶かしたのであろうか、水の上に臙脂を流す美しい朝焼けの空。
 だが、宵っ張りの町々は目ぶた重く、まだ眼ざめてはいない。
「朝は宮、昼は料理屋、夜は茶屋……」という大阪の理想である生活与件。そのイの一番に大切な信心の木履の音もしない享楽の街の東雲。
 瓦灯が淡くまたたいている。
 私は、安井道頓の掘ったこの掘割に目をおとして、なんとなく、
 ――どおとん。
 と、つぶやく。そしてフッと
 ――秋
 というフランスの言葉を連想する。
 左様、巴里の空の下をセーヌが流れるように、わが大阪の生活の中を道頓堀川が流れているのだ。
 間もなく秋が来る。



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