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神経質に対する余の特殊療法
しんけいしつにたいするよのとくしゅりょうほう
作品ID57438
著者森田 正馬
文字遣い旧字旧仮名
底本 「神經質及神經衰弱症の療法」 日本精神醫學會
1921(大正10)年6月5日
入力者貴重資料保存会(入力班)
校正者貴重資料保存会(校正斑)
公開 / 更新2016-07-31 / 2016-06-23
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 最初に先づ余が此の療法を用ふるに至つた由來を一寸述べて見よう。余は十五六年も前には、神經質を治すに大に催眠術の奇效を得んとして、久しい間努力した。丁度黴毒に六〇六號の出來た時、從來不治であつた麻痺性痴呆も、初めて之によつて根治する事が出來るといふ夢を見たやうなものであつた。又所謂説得療法は、人が神經質の病的心理に就いて或ものを知らば、當然患者に對して説得せざるを得ない事になるものである。で、余は赤面恐怖症などに對しても、無暗に催眠術と此説得とを以て、其の病症に突貫肉薄したものであつたが、半年も一年も治療を講ずる間、余も閉口すれば患者もくたびれて、何時とはなしに中止する樣になり、赤面恐怖症の如きは一時は不治のものとあきらめた事もあつた。然しこれも今日では、余の特殊療法で一二ヶ月の短期間に、治癒し得るものとの自信が出來る樣になつた。又其後ビンスワンゲル(Binswanger)や、チーヘン(Ziehen)等の用ふる生活法正規の法を種々に案配して、患者をして之を實行せしめ、或は不眠に對してもチーヘンの法で就床前に時間を定めて、運動と安息とを交互にやらせる法などをも試みて來た。又説得法は固より常に用ふる所であるが、神經質に對する見解の異なるに從ひ、又個々の患者の心理を洞察する事の經驗と共に次第に變化して來た。特に前にも述べたやうに、論理の事實と感情の實際とを決して一樣に考へてはならぬ事、一概に論理を以て感情を厭服せんとすれば、却て其目的に矛盾する事等を知るに至つて、次第に余の説得法は變化して來たのである。其他余が神經性の苦悶状態に對し、絶對的臥蓐療法を用ひて著效を收めた事や、何や彼やで次第に治療法の系統を作り、覺束ないながら余の考案した今日の治療方式が出來上つたのである。自分自身では此の療法は神經質の根本療法の上に、少くとも示唆を與へるものであつて、自分の經驗では從來本症に對して著效を收めたやうに思ふ。併し乍ら自分で工夫した療法は何時でも我情に執着して、自己暗示作用により、特別の效能があるやうに謬見を起すものであるといふ事は、我れ人共に免れ難い處であるから、之に對して充分に識者の實驗と批評と教示とを希望する處である。其の方法はといへば、一見極めて通俗平凡であつて、全く醫術らしくもないものである。
 余の神經質に對する共通的の基礎療法としては、之を左の四期に別つて施すのである。即ち、
第一期、絶對臥蓐。
第二期、徐々に輕き作業。
第三期、稍重き身體的精神的勞作。
第四期、不規則生活による訓練。
 此の治療期間は長くとも一期間一週日で、四週間を以て終り、或は三日宛とすれば十二日間で此療法を終るのである。で、其三期間は全く社會と絶つて、家族との面會をも許さない隔離療法であつて、其の根本的の目的は、患者をして精神の自然發動、及び其の成行きを實驗體得せしめて、自己に對する從來…

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