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球皮事件
きゅうひじけん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎集 第一巻」 岩波書店
2000(平成12)年10月5日
入力者kompass
校正者砂場清隆
公開 / 更新2017-12-18 / 2017-11-24
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 この話は寺田先生が航空船の爆発の原因を調査された時の研究室の内部の話である。もう十三、四年も前の話であるし、その当時新聞にも、通俗科学の雑誌にもこの内容は出たことがある。それにさらに詳しい研究報告も英文で書かれて理研の報文に当局の許可を得て出版されているのだから、今頃書くのは少し陳腐の感がないでもないが、それだけに別に差し障りのあることもないだろうと思われる。
 問題はある航空船が、ある場所で初めて爆発したことがあって、先生がその原因調査の会の嘱託として、その原因を調べられたのである。丁度私はY君と一緒にその頃先生の指導の下に水素の爆発の実験をしていたので、丁度良い塩梅にその研究の御手伝いをすることが出来たのである。この話は純粋に物理的の研究方法としてみても非常に興味が深く、かつ先生がいかに優れた科学者であったかということを示す良い例でもあるが、その外にちょっと探偵小説風な興味もある珍しい話なのである。
 冬の初めのある日、先生は珍しく少し興奮されたらしい顔付で、実験室にはいってこられた。そしてY君と私とを呼ばれて「丁度君達の水素の方の実験と直接関係のあることだから、一つ御苦労だが今の実験をちょっと止めて、飛行船の爆発の実験をやって貰いたいのだが」という話を切り出されたのであった。話はこうなのである。ある航空船が全く原因不明で、某日某時○○の上空で爆発をして、乗組員は全部焼死し、黒焦げの器械の残骸が畑の中で発見されたというのである。それで、それだけの材料がここに提供されて、その原因を究明して、今後の対策をはかりたいというのが今度の新しい実験の目的なのである。
 きいてみるとこれは大変な話で、普通に考えたら、こんな難問を初めから本気で真面目に引きうける人は、先生のような責任の地位にある人の中には少いのである。ちょっと考えると、これは手の付けようのない難問で、いくら先生でもこれをどう解決して行かれるかということは全く見当がつかなかった。それだけにこれは千歳一遇の好機であると、Y君と私とは非常な興味を持って、胸を躍せながら先生の実験の命令を待ったのであった。そういう場合、先生は非常に優れた教育者としての一面を遺憾なく発揮されて、この実験がどういう意味を持つか、どうしてこの実験が必要になったかという由来を詳しく話されたのである。
「こういう問題は兎に角、最初に出来るだけ詳しく当時の事情を知ることが必要である」ということをまず教えられた。先生は、色々当日の気象状態、航空船の模様から途中の飛行状態と出来るだけ詳しい情報を集められたのだそうである。そしてそれを一々吟味して行かれた中に、一つちょっと変だと思われたことがあった。それは丁度爆破の直前に、航空船から「只今非常にかぶって(動揺のこと)難飛行を続けている」という意味の無電がきたのであるが、それに対して基地の方からあ…

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