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続先生を囲る話
ぞくせんせいをめぐるはなし
作品ID57462
著者中谷 宇吉郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎集 第一巻」 岩波書店
2000(平成12)年10月5日
入力者kompass
校正者岡村和彦
公開 / 更新2019-11-28 / 2019-10-28
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

○ Rationalist の論

 先生は書かれるものには、「とも考えられる」とか、「かも知れない」というような表現を始終用いておられるが、話をされる時には、特に少数の集りの場合には少し熱がはいってくると、随分はっきりと物をいわれたものであった。
 僕はこの頃になって、科学者は総ての問題に口を入れて、決して恥しくないという自信を得たよ。この頃ネーチュアに、scientist という言葉がいけない、rationalist とした方が良いという意見が出ていたが、その通りだと僕も思う。科学者というものは、宜しく rationalist すなわち合理的に物を考える人にならなければいけない。特に物理をやる者は、物の理を学んでいるという気持を始終失ってはいけない。少し極端なようだが、僕はどんな学問をやるにも物理が必要だと思うね。物の理を知らなくては学問は出来ないからな。ところが専門の物理学者になってしまうと、かえって物の理を忘れてしまうことがあるから、その点はよほど注意していなければいけない。ネーチュアに rationalist の論が出た時、色々の人の意見をきいていたが、その返事の中に、ラサフオードが自分はアマチュアである、決して professional scientist ではないという回答をしていたが、大いに我が意を得たりと思ったね。あれでなくちゃいけない。
 実験なんかでも、あまり勉強ばかりしていると、つい目を瞑って研究をするようになるから、よほどその点は注意する必要がある。いつでもアマチュアの気持を失わずに、楽しみながら、始終目を開いて仕事をしなければいけない。それがすなわち rationalist なんだよ。

○ 津浪と金庫の話

 三陸の津浪の被害地を、地球物理学会の錚々たる先生方一同で見学に行った時、大変な難問にぶつかってしまった。それは何とかいう一番大きい金庫が津浪のために打ちあげられて、小さい家を二軒もとび越して山手の方へ持って行かれたという話が現場で立証されてしまったのである。金庫の旧の位置も津浪で持ってこられた現在の場所も確定したのだから、頭の良いことでは自信のある若い地球物理学者が揃った手前、何とか説明しなくては済まされない。津浪の浪が一局所に集ってきて、ホースから迸り出る水のような作用が生じたとかいう風な名論が続出したが、とても何百貫とある金庫を家二軒とび越させる力は出てこない。散々皆で頭をひねっている中に、誰かがちょっとその金庫の大きさと目方から比重を計算してみたら、〇・四とか〇・五とかいう値が出てしまった。何のことはない、金庫は浮いてきたのである。そこで前から黙ってきいておられた隊長格の某博士が感嘆の声を発せられた。「なるほどそういえば軍艦だって浮いているからなあ」というのである。
 その後曙町の応接間に寅彦先生をお訪ねした時、ちょ…

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