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魔女の家で見た夢
まじょのいえでみたゆめ
作品ID57474
原題THE DREAMS IN THE WITCH-HOUSE
著者ラヴクラフト ハワード・フィリップス
翻訳者The Creative CAT
文字遣い新字新仮名
入力者The Creative CAT
校正者
公開 / 更新2016-07-19 / 2019-11-22
長さの目安約 87 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 夢が熱を運んだか、熱が夢を生んだのか、ウォルター・ギルマンには判らなかった。全ての背後に蹲るのは古い街の薄気味悪く膿んだ恐怖、黴臭く不浄な屋根裏部屋の破風に纏わる恐怖だった。そんな屋根裏部屋で彼は書き物をし、研究し、図と公式に取り組み、さもなければ粗末な鉄のベッドに身を放り込んでいたのだ。彼の耳は超自然的に、堪え難い程にまで鋭敏になっていき、随分前から安物の置時計を止めていた。時を刻む音ですら砲撃の轟音並に聞こえるようになっていたからだ。夜になると、外に広がる暗黒の都市の微かな物音、虫に食われた仕切り板をトコトコ走るドブネズミの邪悪な足音、世紀を重ねた家の隠れた梁が立てる軋み、もうそれだけで彼は耳障りな音の汎魔殿に居るような気になってしまった。暗闇は説明のつかない音で常に満たされ――彼はいつか今聞こえている騒音がおさまり、その背後に蠢くやも知れぬ、より密やかな物音が聞こえてきはしまいかと折々身を震わせていたのだ。
 彼は変わることのない、伝説に取り憑かれた都市アーカムに住んでいた。集蔟するギャンブレル屋根は傾きこの州のかつての暗黒時代に魔女が王の官吏から身を隠した屋根裏へと落ち込んでいた。そんな街の中でも彼が寝泊まりしていた破風の部屋ほど macabre な記憶が染み付いている場所はなかった――老婆ケザイア・メーソンが住んでいたのがまさにこの屋敷のこの部屋だったからだ。この老婆が果たしたセーレム監獄からの脱獄は結局今に至るまで誰も説明できないでいる。それは一六九二年のことで――看守は発狂し、ケザイアの牢屋から小走りで逃げた白い歯を持つ毛むくじゃらの小さな何かのことをぶつぶつ呟いて、コットン・メイザーすら灰色の石壁の上に何か赤く粘性のある液体で塗り付けられた曲線と角度のことを説明することができなかった。
 多分ギルマンはあんなに猛勉強してはいけなかったのだ。非ユークリッド幾何学と量子物理学とくれば誰の脳髄だってパンパンに腫れ上がらすのに十分だし、それらを伝承と混ぜ合わせてゴチック物語や野蛮な炉端の囁きが仄めかす食屍鬼めいた何かの背後に異様な多次元的現実世界の痕跡を探ろうなどとしたら、精神を張りつめずにすむ訳がない。ヘーヴァリル(*1)出身のギルマンが己の数学研究と古の魔術の幻想的な伝説とを結合させるようになったのは、アーカムで大学に入ってからだった。この街の空気に流れる老翁めいた何かが彼の想像力にこっそりと働きかけたのだ。ミスカトニック大学の教授たちは彼に勉強の手を緩めるように迫り、彼向けの講義をいくらか中断したりもしたものだ。そればかりか、禁断の秘密を扱ったいかがわしい古書を読むのを止めろとも言った。それらは大学図書館の書庫に施錠の上保管されていた。だがそういった予防措置は最早時宜を逸していた。ギルマンは既にアブドゥル・アルハズレッドの恐るべき『ネクロノミ…

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