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殺人迷路
さつじんめいろ
副題05 (連作探偵小説第五回)
05 (れんさくたんていしょうせつだいごかい)
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪」 光文社文庫、光文社
2004(平成16)年6月20日
初出「探偵クラブ」1932(昭和7)年10月
入力者金城学院大学 電子書籍制作
校正者noriko saito
公開 / 更新2018-10-09 / 2018-09-28
長さの目安約 17 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

インパーフェクト・クライム

「で犯行の手掛は? 被害者の身許が分らないとすると、せめて、犯人の手口を示す、一寸した証拠でも残ってはいなかったかしら」
 正岡警部が鎌倉署長の顔色を読むようにして尋ねた。というのは署長の困惑した表情の奥に、何だか妙なものが、一縷の希望みたいなものが感じられたからである。
「アア、その方の証拠なら、少しばかり蒐集してあるよ。第一にこれです」
 署長は果して、待ってましたという調子で、ポケットから彼の常用のシガレット・ケースを取出すと、勿体らしくそれを開いて見せた。中にはエアシップが二本と、白紙に包んだ一枚の眼鏡の玉。云うまでもなく証拠品というのは、眼鏡の玉の方だ。
「触っちゃいけない。実にハッキリした指紋がついているんだ。これはもう一つの指紋と一緒に写真に撮って、今頃は署の方で現像が出来ている時分です」
「つまりその眼鏡の玉が、この部屋に落ちていたという訳ですね。近眼鏡らしいね。で、もう一つの指紋っていうのは、一体どこにあったんです」
 正岡名探偵の顔が一寸緊張して、鋭い両眼が一際光って見えた。
「海岸の方に開いている裏口の、ドアの引手のガラス玉の表面に、二つも三つも、しかもそれが、この眼鏡の奴と全く一致しているんだ」
 署長は少々得意でない訳には行かなかった。
「ホウ、すると犯人は、その裏口から出入りしたって訳だね。……無論戸締りはしてあったんでしょうね」
「家主はそう断言している。併し、こんな借家のドアの合鍵を造る位、造作はないですからね。それから正岡君、もっと確かなものがあるんだ。犯人の足跡らしいものがね」
 正岡氏は、かくも矢つぎ早に提出される数々の手掛に、寧ろ変挺な驚きを感じないではいられなかった。これがそもそも予告犯人の所謂「完全なる犯罪」なんだろうか。却ってその正反対のものではないのか。
「足跡って、どこにです」
「その指紋のあるドアの内側にも外側でも。マア来てごらんなさい。それを見ると、犯人の行動が手にとるように分るんだから」
 署長は先に立って、その裏口のドアへと、階段を降りて行った。正岡警部、雑誌記者津村、小説家星田の順でゾロゾロとそのあとに続く。
 だが、この事件については最も熱心であるべき小説家星田が、なぜ一同の一番あとになって、しかも、まるで気乗りのしない調子で、ノロノロと歩いて行ったか。実に不思議と云わねばならなかった。
 彼の顔は異様に蒼褪ていた。目はキョロキョロとして据わりがなかった。非常な驚き、何とも云えぬ恐怖、そして底知れぬ不安の情が、まざまざと彼の顔に刻まれていた。幸いにも、手掛の発見に夢中になっている人々は、それを気附きはしなかったけれど。
「これです。男の靴の跡が、可成りハッキリ出ているでしょう」
 署長がそれを指さしながら三人を顧みた。問題のドアの内側は三尺四方程の狭い土間になっていて…

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