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火縄銃
ひなわじゅう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪」 光文社文庫、光文社
2004(平成16)年6月20日
初出「江戸川乱歩全集 第十一巻」平凡社、1932(昭和7)年4月
入力者金城学院大学 電子書籍制作
校正者A.K.
公開 / 更新2019-03-16 / 2019-02-22
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 或年の冬休み、私は友人の林一郎から一通の招待状を受け取った。手紙は、弟の二郎と一緒に一週間ばかり前からこちらに来て、毎日狩猟に日を暮しているが、二人だけでは面白くないから、暇があれば私にも遊びに来ないか、という文面だった。封筒はホテルのもので、A山麓Sホテルと名前が刷ってあった。
 永い冬休みをどうして暮そうかと、物憂い毎日をホトホト持て余していた折なので、私にはその招待がとても嬉しく、渡りに船で早速招きに応ずることにした。林が日頃仲の悪い義弟と一緒だというのが一寸気がかりだったが、兎も角橘を誘って二人で出掛ける事になった。何でも前の日の雨が名残なく霽れた十二月の、小春日和の暖かい日であった。別に身仕度の必要もない私等は、旅行といっても至極簡単で、身柄一つで列車に乗込めばよかった。この日、橘はこれが彼の好みらしかったが、制服の上にインバネスという変な格好で、車室の隅に深々と身を沈め、絶えずポオのレーヴンか何かを口誦んでいた。そうやって、インバネスの片袖から突出した肘を窓枠に乗せ、移り行く窓の外の景色をうっとりと眺め乍ら、物凄い怪鳥の詩を口誦んでいる彼の様子が、私には何かしらひどく神秘的に見えたものだ。
 三時間ばかりの後、汽車はA山麓の停車場に着いた。何の前触れもしてなかったことだし、停車場には勿論誰も出迎えに来てはいなかったので、私達は直駅前の俥に乗ってホテルに向った。ホテルに着くと、私達を迎えたホテルのボーイが私達に答えて言った。
「林さんでございますか、弟様の方はどこかへお出ましになりましたが、兄様の方は裏の離れにお寝みでございます」
「昼寝かい」
「ハイ、毎日お昼から暫くお寝みでございますので。では離れへ御案内致しましょう」
 その離れは母屋から庭を隔てて十間程奥に、一軒ポツンと建っている小さな洋館であったが、母屋から真直に長い廊下が通じていた。
 部屋の前に私達を導いたボーイは「いつもお寝みの時は、内から錠を卸してございますので」と言いながら、閉された扉を軽く叩いた。併しよく眠っているとみえて、内部からは何の返事もない。今度は少し強く叩いたが、それでも林の深い眠りを覚ますことは出来なかった。
「オイ、林、起きぬか」
 そこで、今度は私が大声に喚いてみた。これなら如何に寝込んでいても目を覚ますだろうと思ったが、どうした事か、内部からは何の物音も聞えない。橘も一緒になって、扉を一層力強く叩き乍ら呶鳴ったが、更に目を覚ます気配もなかった。私は何だか不安になって来た。非常に不吉な事が想像された。
「オイ、どうも変だぜ。どうかしてやしないか」
 私が橘にそう言うと、橘も私と同じような事を想像していたらしく、ボーイの方を振り返って言った。
「林がこの内部で寝ているのに間違いはないでしょうね」
「エエ、それはもう――何しろ内部から鍵もかかっていますし」
「合鍵…

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