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智恵の一太郎
ちえのいちたろう
作品ID57533
著者江戸川 乱歩
文字遣い新字新仮名
底本 「江戸川乱歩全集 第14巻 新宝島」 光文社文庫、光文社
2004(平成16)年1月20日
初出象の鼻「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1942(昭和17)年1月<br>消えた足跡「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1942(昭和17)年2月<br>智恵の火「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1942(昭和17)年3月<br>名探偵「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1942(昭和17)年4月<br>空中曲芸師「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1942(昭和17)年5月<br>針の穴「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1942(昭和17)年6月<br>お雛様の花びん「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1942(昭和17)年7月<br>幼虫の曲芸「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1942(昭和17)年8月<br>冷たい火「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1942(昭和17)年9月<br>魔法眼鏡「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1942(昭和17)年10月<br>月とゴム風船「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1942(昭和17)年11月<br>兎とカタツムリ「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1942(昭和17)年12月<br>白と黒「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1943(昭和18)年1月<br>風のふしぎ「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1943(昭和18)年4月<br>飛行機を生み出すたのもしい力「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1943(昭和18)年7月
入力者金城学院大学 電子書籍制作
校正者入江幹夫
公開 / 更新2021-09-27 / 2021-08-28
長さの目安約 137 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

象の鼻




 明石一太郎君は、学校のお友だちや近所の人から、「智恵の一太郎」というあだなをつけられていました。それは、一太郎君がとても、うまい考を出して、みんなをびっくりさせたことが、いくどもあったからです。
 近所のおばさんなんかは、一太郎君を「頓智がうまい」といってほめましたが、一太郎君の智恵はただの頓智ではなくて、何でもすじみちを立てて、よく考えてみるという智恵なのです。「なぜ」ということと「どうすれば」ということを、ほかの子供たちよりも、ずっとよけいに考える気質だったのです。
 昔からのえらい発見や発明はみな、この「なぜ」と「どうすれば」の二つがもとになっていることは、みなさんもごぞんじでしょう。ニュートンという学者は、「ほかの物はおちるのに、なぜ、月だけはおちないのだろう」とふしぎに思い、その「なぜ」をどこまでもどこまでも考えていって、あの「引力の法則」というものを発見したのです。
 また、飛行機を一ばんはじめに考え出した人は、「どうすれば、人間も鳥のように飛べるだろうか」ということを一心に考えつめたからこそ、それがもとになって、世界に今のように飛行機時代が来たのです。「なぜ」と「どうすれば」が、私たちにとって、どんなに大切かということは、このたった二つの例を考えただけでも、よくわかるではありませんか。
 一太郎君はまだ小学校の六年生ですから、そんな大学者や大発明家のような、えらい智恵はありませんが、でも、「なぜ」と「どうすれば」を考えることでは、学校のお友だちのだれにも、ひけはとりませんでした。
 学科のうちでは算数と理科がとくいで、算数のむずかしい問題をといたり、理科の実験をしたり、飛行機や機関車の模型をつくったり、望遠鏡や顕微鏡をくふうしてこしらえたり、そういうことが何よりもすきで、少年発明品展覧会に、自分で考え出した模型を出品して、ごほうびをいただいたこともあるくらいです。
 それから、一太郎君はむずかしい謎をとくのもとくいでした。頓智でとくのではなくて、すじみちを立てて、よく考えてとくのです。でも、ほかの人には、一太郎君が頭の中で考えたすじみちはわからないものですから、いきなりむずかしい謎をといてみせますと、みんなびっくりしてしまい、それが評判になって、いつのまにか「智恵の一太郎」などと呼ばれるようになったわけです。
 私はこれから、一太郎君がみんなを感心させたお話のうちから、皆さんの参考になりそうなのをえらんで、一つずつ書いて行くつもりですが、今度は最初のことですから、一太郎君がまだ五年生だったころの、ごくやさしいお話をいたしましょう。みなさんのうちには、一太郎君よりも、もっともっと考えぶかい、智恵のすぐれた方もいらっしゃるでしょうが、でも、このお話は、そういう方にも、きっとおもしろいだろうと思います。
 それは、一太郎君がもう一月…

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