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進化論と衛生
しんかろんとえいせい
作品ID57881
著者丘 浅次郎
文字遣い新字新仮名
底本 「進化と人生(下)」 講談社学術文庫、講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「国家医学会にて講演」1905(明治38)年6月
入力者矢野重藤
校正者y-star
公開 / 更新2018-06-18 / 2018-05-27
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 進化論と衛生という表題を掲げたが、実は生物進化の一大原因なる自然淘汰と衛生との関係について述べたいとおもう。そもそも進化論とは、今日世の中にある生物は動物でも植物でも決してすべて世界開闢のときから今日のとおりの形に造られ、そのまま少しの変化なしに子孫が残って、今日まで伝わったわけではなく、実は最初はなはだ簡単な構造を有する先祖から分かれ降ったもので、つねに漸々変化し、代を重ねるにしたがい、変化も次第にいちじるしくなって、ついに今日見るごとき数十万種の動植物ができたのであるという論で、これに対しては比較発生学、化石学等にほとんど無限の証拠があるから、今日のところではもはや学問上では疑うべからざる事実と見なすのほかはない。しこうして生物種属はなにゆえかくのごとくつねに進化しきたったかという問題に答えるのがすなわちダーウィンの自然淘汰説である。
 自然淘汰説の大体を述べれば、まずいかなる生物にも三つの性質が備わってある。第一は遺伝性というて親の性質が子に伝わること、第二は変化性というて同一の親から生まれた子供でもその間には必ず多少の相違変化のあること、第三は無限の繁殖でたちまちのうちに非常の数に増加すべき傾きを言うのであるが、この三つの性質が備わってある以上は、その結果として必ず生物種属の進化ということが生ぜざるを得ない。そもそも生物の繁殖する割合は幾何級数、すなわちいわゆる鼠算の割合で進むから、代々わずかずつ増加するごとくに見えても、たちまち無限にふえることになるゆえ、決して生まれた子孫がみな生存することはできぬ。かりにここに一本の草があって、わずかに二個の種子を生じ、翌年にはこの二個の種子から二本の草が生じておのおの二個ずつの種子を生じ、代々かくのごとくにして進んでゆくと仮定すると、十年目には千本以上、二十年目には百万本以上、三十年目には十億本以上というように驚くべき速力で増加する勘定になる。さればいかなる動植物でも生まれただけの子孫がことごとく生存しうる余地はとうていないから、ぜひとも生存のための競争が起こり、勝ったものは生存して子孫を遺し、敗れたものは趾をとどめず滅び失せてしまう。その場合にいかなるものが勝って残るかといえば、むろん生存に適する性質を備えたものに定まっている。もし同一種属の個体がすべて寸分も違わず、まったく同様なものであったならば、その間の勝敗はただ単に運次第というほかないが、前にも言ったとおり生物には変化性というものが備わってあって、同じ親から生まれた子でもその間には必ず多少の相違があり、したがって同一種に属する個体はみな幾分ずつか相互に異なった点があるゆえ、競争の場合にはその中で生存に適する性質の最もよく発達したものがぜひとも勝ちを占めることになり、これらのものが生存して繁殖するときには、また遺伝性によって競争に打ち勝ちえた性質を、子…

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