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民種改善学の実際価値
みんしゅかいぜんがくのじっさいかち
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「進化と人生(下)」 講談社学術文庫、講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「人性」1911(明治44)年5月
入力者矢野重藤
校正者y-star
公開 / 更新2018-06-18 / 2018-05-27
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ここに民種改善学というのは、近来西洋諸国で盛んに用いられるEugenicsという字を訳したものである。この字には善種学とか、優良種族学とか、人種改良学とかいう訳語もあるが、私は数年前から、民種改善学という字をあてて、これが最も適当と考えるから、そのまま用いることにした。この学問は有名なチャールス・ダーウィンの従弟にあたるフランシス・ゴルトンの唱え出したところであるが、この人は今より十年前に「法律にも感情にもさからわずに人間種族の改良のでき得べきこと」という題で一回の講演をした。またそれから三年を経てユージェニックスと題する小さい書物を書いて民種改善学の範囲、目的、方法等を明らかに述べたが、これによってユージェニックスという語が定められ、一般に用いられることになった。ゴルトンは若いときから種々の方面の学問研究に骨折った人で、特に遺伝に関して古人のまだ言わなかった新しい学説を出して学者間に重んぜられていたが、ユージェニックスという語を造ったのみならず、ロンドン大学のあるところに自分の費用で、民種改善学の研究所を創立し、専門家にそれぞれ研究せしめて、その研究の報告の公にせられたものが今日までにすでに十五、六冊も出ている。その他英国には民種改善教育協会というものもできて、これからはやや通俗的に書いた雑誌を発行して、民種改善学に関する知識を普及することをつとめている。ドイツでは近来人種の衛生ということをやかましく唱えるようになったが、これも民種改善とほぼ同じ意味の語である。ゴルトンは今年一月十七日に日本流の勘定にすると九十歳の高齢で死んだが、その遺言によって、ロンドン大学に民種改善学の講座が新たに設けられたということである。かような次第で、民種改善という学問はきわめて新しいにかかわらず非常な速力で評判が高くなり、近ごろは多少流行的に盛んに唱えられているが、今日東京で流行する縞柄が数ヵ月の後にはへんぴな地方へも流行しおよぶごとくに、西洋でやかましく唱えられる学説が、数年遅れて日本で隆盛をきわめることは従来の例によっても確かであるゆえ、おそらく民種改善学もここ一、二年の間には、わが国でも急に盛んに唱えられ、どの雑誌を見ても、かならず一つや二つのこの学に関する論文を見るときがくるであろう。しかして従来の例によると、わが国ではいかなる学説でも盛んに流行する間は、だれもかれもこれを唱えるが、半年か一年の後には全くこれを忘れて顧みるものもなくなるのが規則のごとくであるが、その原因をたずねると、一は国民性のしからしむるところで、とうてい避くべからざることかもしれぬが、一は流行の当時にその学説の真価をきわめず、無暗にありがたがって買いかぶり過ぎるに基づくようである。およそ学説として世に公にせられるほどのものならば、みな相当の理屈のあるはもちろんのことで、その点だけを聞くといかにもも…

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