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![]() けんせいにおけるよろんのせいりょく |
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作品ID | 57899 |
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著者 | 大隈 重信 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「大隈重信演説談話集」 岩波文庫、岩波書店 2016(平成28)年3月16日 |
初出 | 「憲政ニ於ケル輿論ノ勢力」日本蓄音器商会、1915(大正4)年3月2日 |
入力者 | フクポー |
校正者 | 門田裕志 |
公開 / 更新 | 2020-03-11 / 2020-02-21 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
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〔憲政と輿論〕
帝国議会は解散されました。今まさに旬日の後に選挙が行われて、今全国は選挙の競争が盛んに起っておる時でありますのであります。
この時にあたって、憲政に於ける輿論の勢力を論ずるのは、最も必要なりと信じますのであります。憲政そのものは頗る複雑の政治にして、人文の発達によって起った事は、諸君のご承知の事であります。人文の発達に伴えば、自ずから輿論が此所へ成立つのである。この輿論そのものが盛んにならなければ、憲政そのものが充分に運用されぬと信じますのであります。すでにこの選挙に於て、帝国議会開けて以来二十有五年、選挙を繰返す事十回以上に経験を積んだに拘わらず、未だ選挙の状態が、遺憾ながら不完全なりという事を思いまして、甚だ憂慮に堪えぬ次第であります。かくの如き国家の重大なる選挙に於て、盛んに輿論の起る事を望むに拘わらず、未だ公平なる輿論が、すべて選挙を動かす如き勢力が未だ顕われぬのを遺憾と致すのであります。
およそ物の善悪、邪正、順逆は、実質的に道徳的に発達するものである。国民が善政を望まんとすればだ、これに対する自ずから輿論が起らなくてはならぬと思いまするのである。
輿論の勢力を、歴史的に聊かここに述ぶる必要を感じますのであります。独裁政治の時代に於ても、輿論の勢力は大なるものである。王政維新は何に依って起ったか。七百年の武断政治を廃する。全く輿論の勢力である。四百年の封建政治を廃して郡県制を起し、四民平等の状態に変化したのは、これまた大なる輿論の勢力である。而して法律の編纂、地方の自治、ついに憲法が発布さるるに至ったのも、これまた輿論の勢力に過ぎぬ訳でありますのであります。
かくの如く輿論の勢力は大なるものであってだ、ことに憲政の下に、全くこの憲政の運用発達は輿論に支配さるるものであるという事は、信じて疑わぬのである。輿論はすべて知識ある階級によって導かるるものである。
ここに於いて政治家は、国民の指導者となって国民を導く、輿論を導く。ある場合には、輿論を制するという力がなくてはならぬのである。然るに憲政の下に、政党の人は輿論を指導するべきの働きが起ったか。近来、未だかくの如き政治家を見ないのである。
然るにこのたびの解散によって、初めて憲法実施以来、解散の理由を明らかにして、反対党の論ずるところと政府の論ずるところを対照して、聡明なる国民の前に訴えたという事はこのたびが初めてである。
ここに於て、翕然として輿論は今起りつつあると信じますのである。これは憲政の発達のために、甚だ悦ぶべきことであると思います。
〔大切なる鍵〕
憲法によって与えられたところの、国民の権利と義務は重大なるものである。憲法そのものは、国家を組み立つるところの根本組織である。その根本組織によって、国民に与えられたるところの臣民権、言い換えれば国民の義務は頗…