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東亜の平和を論ず
とうあのへいわをろんず
作品ID57987
著者大隈 重信
文字遣い新字新仮名
底本 「大隈重信演説談話集」 岩波文庫、岩波書店
2016(平成28)年3月16日
初出「外交時報 第八四号」1904(明治37)年11月
入力者フクポー
校正者門田裕志
公開 / 更新2019-04-25 / 2019-03-29
長さの目安約 32 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

〔今日の世界と東アジア〕
 諸君、近来支那朝鮮という問題がよほど世間の注意を惹くことになった。ことに満韓という問題は政治家、学者は勿論、事業家の間などにも、よほど注意せらるることになったのは甚だ喜ぶべきことであります。我輩はほとんど十数年以来支那の問題を研究している。しかし今までは社会はあまりこれに耳を傾けなかった。然るに近来は全社会を通じて、この問題によほど重きを置くということになったのは、諸君と共に最も喜ぶべき事である。抑々この問題を解釈するために最も必要なる事件は、目下起っているところの我が国家の安危栄辱に関するこの戦争である。この戦争の結果がどうなるかということが先決問題である。もしこれが負ければ清韓どころではない。我が海岸線を守らなければならぬという事になる。これは実に容易ならぬ問題である。国民の頭上に臨んでいるところの最も大なる問題である。しかしこの戦争には必ず勝つと信じている。当局者も無論信じている。ことに軍隊は最も大なる自信力を以て戦いつつあるのである。日本の勇敢なる軍隊と、智勇兼備の将校の力に依って必ず勝つに違いない。しかしながら、戦争の勝利によりてすべての事は決せられぬのである。
 今日の世界は決して日露で支配している訳ではない。日露以外、世界に強国、大国が存在しているということを忘れることはならぬ。今日世界に如何なる大国があるか、如何なる強国があるかといえば、是非七つ八つ指を屈せねばならぬ。あたかも支那の春秋戦国の時代、戦国七雄というような有様である。欧羅巴に於ては英、仏、独、露西亜、墺太利、伊太利、この六大国がある。これに北米合衆国を加えて七大国である。戦国七雄に比しても、まさか現在戦国ではないが、ほとんど戦国の有様を現している。而して今まさに絶東の日本帝国がこの七大国に加わって、第八国にならんとする時であるから、このたびの戦いは日露のみで解釈は出来ない。世界の問題である。そこで私が今日議論をする問題は、まず「世界に於ける日本の地位」という演題にしても宜いかと思う。しかしこれではあまり大き過ぎる。今少し縮めて「日本の大陸に於ける勢力」、大陸というても少し漠然としている。「亜細亜に於ける勢力」としようかとも考えたが、亜細亜というてもあまり大き過ぎる。そこで私は「東亜細亜に於ける日本の勢力」、こういう問題にした方が適当であろうと思う。
 そこでこの世界の強国に、今や日本がその一とならんとしつつある、――まだなった訳ではない。自ら強国なりというても戦いに勝っただけで強国になるものではない。種々の強国が日本を強国なりと認識(レコグナイズ)して初めて強国となる。自分一人で豪がっても、世界の強国がこれを認めなければ強国とはなれない。言い換れば、世界の問題に発言権を持するに至って、初めて世界強国の間に立つことが出来るのである。自分一人豪がっていても…

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