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滝見の旅
たきみのたび
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「左千夫全集 第二卷」 岩波書店
1976(昭和51)年11月25日
初出「日本」日本新聞社、1900(明治33)年10月26日、27日
入力者高瀬竜一
校正者岡村和彦
公開 / 更新2018-09-18 / 2018-08-28
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

七月十五日は根岸庵の会日なり。十七日にいでたたんと長塚に約す。十六日夕より雨ふりいでて廿日に至りて猶やまず。
長雨のふらくやまねば二荒の瀧見の旅を行きがてにすも
根岸庵よりされ歌来る。
藁ずきの紙にもあるか君が身は瀧見に行かず雨づゝみする
かえし
雨雲のおほひかくさば二荒山行きて見るとも多岐見えめやも
此夕長塚来りて、雨ふるとも明日は行かん、という。古袴など取り出でて十年昔の書生にいでたたんと支度ととのえなどす。廿一日朝まだきに起き出でて見るに有明の月東の空に残りて雨はなごりなく晴れたり。心地よき事いわん方なし。七時上野停車塲に行けば長塚既にありて吾を待つ。汽車の窓に青田のながめ心ゆくさまなり。利根の鉄橋を越えて行くに夏蕎麦をつくる畑干瓢をつくる畑などあれば
埼玉や古河のあたりの夏蕎麥のなつみこめやもおほに思はゞ
麥わらをしける廣畑瓜の畑葉かげに瓜のこゝたく見ゆる
など口ずさむ。十二時日光に著く。町を過ぎて含満の淵に行き石仏を見る。大日堂の裏手より裏見の滝へとこころざす。道のほとりに咲く草花、あからむ覆盆子などさすがになつかしくて根岸庵のあるじがり端書をやる。
少女等がかざしの玉の赤玉に似たるいちごを採りつゝありく
奧山の道のへに咲く草花をうらめづらしみ見せまくもとな
おぼつかなき歌なり。裏見の滝に著く。茶店に人無し。外国の婦人のまだうら若きと見ゆるが靴の上に草鞋をはき、一人は橋の上に立ち、一人は岩に腰うちかけて絵など写すめり。斯る深山に入りてみやびたるわざに心をこらす少女の心のうちを思うにいとなつかしく今迄は只いとわしき者にのみ思いし外国人の中にかかるやさしきもありけるよと心にくき事限りなし。屏風巌をめぐりて般若方等二つの滝の見ゆる処に出ず。谷を隔てて稍遠く見たるなかなかに趣深く覚ゆ。ここより五十ばかりの人道づれとなりて行く。草履をはき下駄を手に提げたり。広島の人という。三人声かけあいて登るに道けわしければ汗は滝なして降る。薄暗きに華厳の滝をのぞきつ七時過中禅寺湖畔の旅籠屋に入る。
翌朝つとめて起き出ず。快晴。山深き暁のながめ、しんしんとして物一つ動かぬ静かさは膚にしみわたりて単衣に寒さを覚えたり。日、湖の面を照す頃舟を雇うて出ず。二荒の裾山樹々の梢に鶯の今をさかりと鳴く声いとめずらし。風はそよとも吹かず、日熱からず、四方のけしきのどかに見わたさるるに
時じくに鶯鳴くも二荒のおくなる里は常春にして
舟、菖蒲が浜に着く。湯本道なり。舟を上れば竜頭の滝あり。しばらく遊びて後戦塲が原に出ず。いろいろの草花うつくしくおのがしし色に誇るが中に菖蒲の花なん殊に多かりける。
二荒の山の裾野にあかねさす紫匂ふ花あやめかも
櫻草の花によく似る紫の花めでつゝも名を知らずけり
花あやめしみ咲きにほふ紫の花野を來れば物思もなし
紫の雲ゐる野べに朝遊び夕遊びます二荒の神
湯の滝を見…

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