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アインシュタイン教授をわが国に迎えて
アインシュタインきょうじゅをわがくににむかえて
作品ID58005
著者石原 純
文字遣い新字新仮名
底本 「随想全集 第九巻」 尚学図書
1969(昭和44)年11月5日
入力者高瀬竜一
校正者フクポー
公開 / 更新2019-03-14 / 2019-02-22
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 チューリッヒでのアインシュタイン教授のことを私は上の文に記しましたが、その後世界大戦が勃発し、それが一九一八年にようやく収まった後に、教授のその間に発表せられた一般相対性理論が世界的に著名となったので、わが国でも改造社の山本実彦氏が京都帝国大学の西田教授と相談して教授招聘のことを決定し、私にもこれを話されたので、私も大いに賛成したのでした。実はしかしこのころアインシュタイン教授は諸方からの同様な招聘に悩まされて、多くはそれを謝絶していられたということを後に親しく話されたのでしたが、それにもかかわらずわが国からの招聘を快諾されたということは、教授がいかに多く東洋への興味をもっていられたかを示すのでありました。改造社からは当時ベルリンに滞在していた社員室伏氏を通じてこれをアインシュタイン教授に謀るとともに、私からも一書を親しく同教授に送ったのでした。それは大正十年夏のことであり、その後十二月に招聘の契約書を送ったのでしたが、翌年五月にそれに対する承諾書が来ました。それには九月にドイツのライプチッヒで自然科学者大会が開かれるが、これは創立百年の記念会であるから、そこでの講演を終えて後に直ちに出発することにすると記してあり、その書信の終わりには、
「あなたとこの秋にお目にかかること、そして私たちにとってはお伽噺の幔幕で包まれている輝かしいあなたの国を知ることをよろこばしくもくろみながら
親しい挨拶をもって
あなたの親愛な
アルバート=アインシュタイン です」
という懐かしい言葉が添えられてあったのでした。かくて十月八日マルセイユ出帆の北野丸に塔乗して十一月十七日に神戸に到着されたのです。私たちはそれを神戸で出迎えましたが、東京帝大の長岡教授、九州帝大の桑木教授、東北帝大の愛知教授なども来合わせられました。天候のぐあいで船がやや遅れたので、その日は京都に着いたのも日ぐれになってしまい、都ホテルで一泊の後、翌日直ちに東京に向かわれたのでした。それから東京、仙台、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡の各地で講演を行ない、十二月二十九日に榛名丸に門司で乗船して帰国の途に就かれたのでしたが、それらの間に夫人とともに諸所の風光に接し、また東洋の芸術を見て驚異の感に打たれられたようでもありました。そのとき私が記した文をここに再録して記念としたいと思います。(講演内容は『アインスタイン教授講演録』のなかに記してあるので、ここではそれは省きます。)
「世界中のいろいろな有様を見るのは自分にとってほんとうに望ましいことです。自分は夢のなかに見るような日本を知りたいので、ことさらにこの旅行に出かけて来ました。実際私には日本ほど特殊な興味を感ずるところはありません」と、教授はいつも私たちに話されました。「科学と芸術とは外見の上では異なっているけれども、それでも両者はこれらが湧き出る同じ精神力を…

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