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チャールズ・ダーウィン
チャールズ・ダーウィン |
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作品ID | 58020 |
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著者 | 石原 純 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「偉い科學者」 實業之日本社 1942(昭和17)年10月10日 |
入力者 | 高瀬竜一 |
校正者 | sogo |
公開 / 更新 | 2019-02-12 / 2019-01-29 |
長さの目安 | 約 12 ページ(500字/頁で計算) |
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生物の進化の問題
科学の上の学説や理論のうちで、今日までに広く世間一般の問題にされたものはいろいろありますが、そのなかで或る方面から強い反対を受け、それを称える学者に社会的な迫害を与えるほどになったものとして、古くはコペルニクスの地動説があり、近代になってはダーウィンの生物進化論のあることは、多分皆さんも知られていることでありましょう。この反対の主要な原因は宗教的な信仰によるのでありまして、殊に西洋では古くからキリスト教の信仰が深くふだんの生活のなかにまでしみ込んでいるので、その聖書のなかに記されていることをそのまま真実として信ずることになるのでした。本当に考えるならば、聖書の字句は、まだ発達しなかったごく古い時代の人達に教えるためにできたのでありますから、科学の真理がだんだんに明らかにされて来るに従って、それを適宜に解釈しなおしてゆかなくてはならないのですが、それほどの深い考えをもたない人たちは、単にその形式に捉われてしまうことにもなるのです。それでコペルニクスの地動説などは、その頃の宗教家からはげしい反対をうけて、科学的にそれを本当であるとしたガリレイなどもひどく迫害されたことは、すでにここでもお話ししたのでしたが、ダーウィンの生物進化論もやはり同じ運命に出遇ったのでした。このダーウィンの学説の出たのは十九世紀の半ば頃のことで、この時代には古いコペルニクスやガリレイの頃とはちがって、科学が著しく進んで居り、それのあらゆる適用が世間に広まって、すべての人たちがその利便をしみじみと感じていることも確かであったのですが、それでいてダーウィンの学説が出ると、宗教的な立場からそれへの反対がおこると云うのですから、実に人間の心理というものはふしぎであると言わなければなりません。もちろん、物事を正しく考えてゆきさえすれば、そんな筈はあり得ないのですけれども、それが出来ないところに人間の弱点があるのでしょう。ごく近頃になってさえ、アメリカのある処で進化論を学校で教えることを禁止したと云うような話が伝えられましたし、またそれとはよほど立場がちがってはいるものの、我が国でも思想の上から進化論に反対する人たちがあると聞きます。しかしすべてこれらは科学の本当の意味を理解しないことから起るので、これでは一方で頻りに科学振興などを叫んでも、そこに大きな矛盾のあることをみずから暴露しているようなことになります。科学の学説や理論は、自然のいろいろな事実を理解してゆくために、ぜひとも必要なのであって、それらはもちろん現在のままで完全であるとは限りませんけれども、だんだんにそれらを完全に導いてゆくことが、科学の進歩を持ち来すものであるということを、十分によく悟らなくてはなりません。宗教や思想などは云うまでもなくそれとは無関係のものであるべき筈なのです。
さて、生物の進化論はどうして現…