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作品ID | 58022 |
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著者 | 石原 純 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「偉い科學者」 實業之日本社 1942(昭和17)年10月10日 |
入力者 | 高瀬竜一 |
校正者 | sogo |
公開 / 更新 | 2018-08-26 / 2018-07-27 |
長さの目安 | 約 11 ページ(500字/頁で計算) |
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近代物化学の発展
物質変化に関する学問、すなわち物化学を正しい意味で創めたのがロバート・ボイルであったことは、さきにお話しした通りですが、その後再びそれが幾らか横みちにそれた形になってしまいました。それと云うのも、ボイルが金属を熱してこれに錆がつくようになると、その金属の重さは幾らか重くなるのを見つけ出したのでしたが、その頃にはまだこの事の本当の意味が分らなかったので、ボイルはこの場合に熱する火焔のなかから何かある物質が出て、金属にくっつくのではないかと考えたのでした。これは当時としては無理もない考えかたであったのですが、それから妙に間違った考えが出て来たのです。なぜと云えば、昔から火はふしぎな魔物のように見られていたので、その正体はなかなかわからなかったのですが、併し一般には火を一種の物質だと見るようになっていたからなのです。それでボイルと同じ頃のドイツの学者で、ベッヘルという人がこのボイルの説をとり上げて、すべて物が燃えるときには、一種の「火の精」とでもいうものが火から追出されて他の物にくっつくのだと説明しました。「火の精」と云ってもどんなものか、よくはわからないのですが、その後これがフロジストン(燃素)という名で呼ばれるようになりました。
そしてこのフロジストン説はその後盛んに行われるようになって、十八世紀の終りまで百年ほども続きました。もちろんこの説の間違っていたのは上にも言った通りですが、しかしそのおかげでたくさんの学者が物質の燃焼するときのいろいろの変化をこまかく研究するようになり、そしてその間にだんだんに正しい考えかたが発展して来たのですから、科学の進歩というものは実におもしろいのです。つまりどんな場合にも本当の事実を研究してゆくうちにしぜんにどこからか正しい関係がわかってくるのです。
最初にこのフロジストン説に疑いをもち始めたのは、イギリスの医者であったジョン・メイヨーで、この人が先ず硝石の研究をはじめ、これがアルカリともう一種の成分とから成っているのを明らかにし、この成分を「硝石の精」と名づけましたが、それが今日の硝酸なのです。ところでメイヨーは更にこの硝酸のなかに空気のなかに含まれると同じ物質のあるのを見つけ出し、これを硝気と名づけました。この硝気はつまり今日の酸素なので、メイヨーはこれが呼吸の際に肺のなかで血液を新しくする働きをもっていることをも示しました。この事は生理学の上での非常に大切な発見で、メイヨーが医者であったからこそ、そういう点に気づいたのでありましょう。
ここでもう一つ注目すべきことは、ごく古い時代には気体、すなわちガスの形をしているものは空気だけだと考えられていたのですが、ここでその空気の一つの成分としての硝気、すなわち酸素が見つけ出されたと云うことなのです。これを最初の発見として、その後気体にもいろいろの種類…