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九州の学生とともに
きゅうしゅうのがくせいとともに
作品ID58038
原題WITH KYUSHU STUDENTS
著者小泉 八雲
翻訳者林田 清明
文字遣い新字新仮名
入力者林田清明
校正者
公開 / 更新2016-10-17 / 2016-09-07
長さの目安約 48 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 官立の高等中学校(a)の学生たちは、かろうじて少年と呼べるくらいであろう。彼らの年齢が低学年では平均一八歳から、高学年の平均が二五歳までというように広い幅があるからである。修業年限がおそらく長すぎるのである。最も優秀な学生ですら二三歳にならないと帝国大学に進学することは期待できない。また、大学に進学するには、漢文の修得に加えて、英語もしくは独語から一科目、英語もしくは仏語から一科目について優れた実践的知識の修得が要件となっている(1)。このように、学生は日本語という優雅な国語の他に、三つもの言語を学習しなくてはならない。漢文の修得だけでも、ヨーロッパの言語を六つも習得するほどの労力に匹敵するのだから、学業の負担がいかに過重であるかを理解してもらえるだろうか。
 熊本の学生たちから私が受ける印象は、出雲の中学校の生徒たちから受けた第一印象とはまったく違っている。これは九州の学生たちがすでに日本人の少年時代のとても素直な期間を経験しており、また誠実で無口な大人へと成長しているからばかりではなく、九州気質とでも呼ばれるものをかなりの程度表しているからである。九州は、古くから日本の最も保守的な地方であり、その中心である熊本市は保守的な気分の横溢したところである。とはいっても、この保守主義は理性的かつ実用的なものである。現に九州地方は、鉄道を敷設するのは早かったし、農業改良技術を取り入れたり、またいくつかの産業では科学技術を採用もしている。ただ国内の他の地域と異なって西洋の風俗習慣は模倣しようとせず、古来のサムライ精神がなお生きている。また九州魂というのは何世紀にも渡って、生活習慣のかなりの単純さから抽出されたものである。豪華な服装はじめそのほかの贅沢を禁じる奢侈禁止令は厳格に実行されている。このような決まり自体は時代を経て古くなってきているが、それらの影響は人びとのとても質素な服装やありのままの直截なマナーに現われている。熊本人は他のところでは大方は忘れられた行為の伝統に固執しており、また話し方や行動の、ある独特の開放感――外国人には定義が難しいのだが、教養ある日本人にはすでに自明のものである――によって特徴づけられているとも言われている。ここ熊本はまた、加藤清正公の堅固な城――現在駐屯するおびただしい第六師団兵――の威光の下に国を思う意識、つまり国への忠誠心や愛国の精神は首都東京よりもはるかに強いとさえ言われている。熊本はこれらを自負し、その伝統を誇りともしている。事実、他に自慢するものはないのだが。熊本の町はだだっ広く点在しており、また単調で雑然としている。つまり、古風で趣のある綺麗な通りや大きな寺院がある訳でもないし、また素晴らしい庭園がある訳でもない。この町は明治一〇年の西南戦争で焼失してしまったので、戦役の硝煙弾雨が消える間もなくにわかに普請された…

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